超有名ミュージカル映画版というと、「レ・ミゼラブル」の大ヒットが記憶に新しい。見に行く側としては、普遍のストーリーに歌の力が加わるので、ある程度の満足感が計算できるのが嬉しい。脚本がぐだぐだで物語とショーの融合がイマイチでも、「歌とダンスは良かったね」という落としどころがあるから、大外れの確率が低いのだ。
そんな後ろ向きの気持ちで入ったのだけれど、アニーを演じるクワベンジャネ・ウォレスのキュートさに不安はあっさり瓦解した。次期ニューヨーク市長を目指す冷酷な経営者役のジェイミー・フォックスが、アニーに心動かされていく様子もお約束だけれど、やっぱり良い。
意地悪な継母キャメロン・ディアス色気さすが!男に色目を使わずにはいられないドラ女
アニーは不幸な境遇でも屈託なく笑って、歌って踊って、決して卑屈にならない。強がりや気遣いを言外に臭わせるのだが、からりと乾いた明るさが見ているこちらの辛気臭さまで吹き飛ばしてくれる。
豪華キャストは期待にたがわず歌もダンスもお手のもの。里子をネズミ呼ばわりし、下町に住む自分の運命を呪っている歌手崩れの継母を演じるキャメロン・ディアスは、男と見たら色目を使わずにはいられないドラ女という設定だが、ふりまかれる凄味、色気はさすがです。
全編を通して非日常の高揚感が溢れているので、ダンスや歌がきちんと物語と地続きになっている。「さぁ、歌うよ!」という気負いがなく、BGMのごとく当然のように歌が始まることもその要因かもしれない。
実は本家のミュージカルを見たことがないので、原作に忠実か否かの判断はできないのだが、現代向けにアレンジされた物語は、間違いがなくすっきり爽快だ。IT長者という設定のジェイミー・フォックスはアメリカンドリームの体現者で、NYを「誰もが夢を手に入れられる街」として愛している。
だが、その愛すべき街のスラムには目を向けない。自ら貧困から抜け出そうとする努力をしないのが悪いと思っている。しかし、アニーのたくましさ、健気さに触れ、その気持ちはだんだん変わってきて......。