反社会行動抑制する前頭皮質の体積減少
愛着障害について、いま脳科学の方面から究明が進められている。福井大学教授で医師の友田明美さんは、6年前、激しい虐待によって前頭皮質という部位の体積が減少する傾向があることを突き止めた。前頭皮質は感情や理性を司り、反社会的な行動を抑制する信号を発する場所で、体積の減少はその機能を低下させることにつながる。
さらに、2年前からは線条体という部分にも着目している。ここは前頭皮質からの信号を受け、行動を起こしたり、逆に抑止したりすることに直接かかわる部位だ。虐待を受けた子たちは線条皮質が正常な反応を示さないことがわかってきた。「これがうまく働かないと、たとえば、良い行いをしたときに褒めても響かないし、悪い行いをしたときにフリーズしてしまうことがあり得ます」(友田医師)
国谷「愛着障害の少年たちの心模様はどういうものですか」
少年事件で精神鑑定を手掛けた岐阜大学医学部の高岡健准教授はこう解説する。「愛着障害は船と港の関係にたとえられます。港、すなわち親が安心できる場所であると、船である子供は海に向かって悠然と出ていくことができる。ところが港がうまく機能していないと、子供は『自分をわかってくれる大人なんかいない』という気持ちに陥りがちです。
また、危険な目に合うことが多いため、常に警戒信号をピリピリと発進させていますから、小さい刺激でも過剰に反応してしまうということが起こりがちと考えられています」
国谷「愛着を形成するまでに時間はどのくらい必要でしょうか」
高岡准教授「時間は関係ありません。短くても大丈夫です。むしろ、子供の気持ちに対して必ず応えてあげること、『応答性』と言いますが、これが非常に大事です」
国谷「何歳ぐらいまで大丈夫でしょうか」
高岡准教授「あくまで目安ですが、3歳を過ぎると港から離れていきます。それが実情だと思います」