新年早々に起きたイスラム過激派による連続テロ事件を契機に、フランスでは反イスラム感情が高まり、バルス首相は「フランスはテロやイスラム過激派との戦争に入っている」と発言し、フランス全土で370万人が「テロは許さない」と抗議のデモを行った。反イスラム感情はフランス以外の欧州各国にも広がっている。ヨーロッパ系住民とイスラム系移民との軋轢で分断されつつあるヨーロッパ社会はどこへ向かうのか。
フランスは欧州でもイスラム系移民がとくに多い。第2次世界大戦後の復興期に、労働力不足を補うため北アフリカなど旧植民地から移民を受け入れ、現在は人口の7%にあたる450万人が暮らしている。フランス政府は同化政策を進めながら、貧困層の多いイスラム系移民への福祉政策とってきた。ところが、不況に陥った1980年代以降、格差や雇用不安からイスラム系移民への風当たりが強まっていった。
これに反発する移民の2世、3世の中からイスラム過激派に接近する若者が増え、連続襲撃事件を起こした犯人もパリ出身のアルジェリア系イスラム教徒だった。
他民族排斥はタブー視のドイツでも大規模な反イスラムデモ
差別や嫌がらせが広がっていることにイスラム系国民の危機感は強く、テロ抗議デモに対抗してささやかだが300人が集まり、「私の預言者に触れるな」の横断幕を掲げ、「イスラム教徒は尊重されていない」などの声をあげた。
イスラム教徒のための相談窓口を開設している反イスラム嫌悪協会の広報担当を務めるユルザ・ルイはこう話す。「預言者・ムハンマドの風刺画を掲載するたびに風刺週刊誌を告発しても、司法当局は『表現の自由の範囲だ』と退けてきた。とくにスカーフをつけているイスラム系女性は仕事場であれ、学校であれ、休日であれ、日常的に暴力や差別の危険にさらされています。この状況に対策を講じなければ今後も同じような被害が続くでしょう」
しかし、反イスラム感情の高まりはフランスだけではない。ドイツをはじめ欧州各地に広がっている。ドイツでは1万5000人が参加して、移民排斥を訴える最大規模のデモが行われた。あからさまな反イスラムを訴えたデモは過去例がないという。ナチスによるユダヤ人虐殺の歴史から他民族排斥はタブー視されてきたからだ。