パリ経済学校のトマ・ピケティ教授の著書「21世紀の資本」は、700ページにも及ぶ専門書にも関わらず、世界で150万部を超えるベストセラーになっている。ピケティ教授は現代社会は働いて得られる所得よりも株や不動産などが生み出す富の方が大きく、それが格差拡大につながっていると指摘している。
これまで経済学者の間では、「格差問題は経済成長すれば縮小する」というのが定説だったが、それは20世紀初頭の2度の世界戦争で資本が破壊された時期にしか当てはまらず、21世紀に入ると格差はますます広がっていることが明らかになった。このままだと「世襲資本主義」になるという。
国谷裕子キャスターがピケティ教授に詳しく聞いた。
「経済成長すれば格差は縮小」というウソ
国谷「アメリカではこの30年、成長した分の7割あまりが上位10%の人の手に渡ったとしていますね」
ピケティ「偏り過ぎですよ。経済の成長が好調だったら正当だったかもしれません。年間成長率が10%だったら、その人たちが見返りとして富の7割を得てもいいでしょう。問題はこの期間のアメリカの成長が比較的平凡だったということです。これで富の7割が上位10%の人の手に渡れば、残りの国民にとっては大損ですよね」
国谷「このままだと危機が生じると感じているのですか」
ピケティ「格差それ自体はある程度必要です。しかし、あまりに大き過ぎると、やがて民主主義をも脅かします。政治的な発言力や影響力において極端な不公平さを招きます。たとえば、政治運動への献金やメディアを通して過度な権力を手にした場合、それは潜在的な脅威になると思います」
国谷「格差の問題に取り組まなければ、やがて保護主義やナショナリズムが台頭してくる恐れがあるということですね。このことを非常に懸念されてます」
ピケティ「これは大きな脅威です。今のうちに対処したいのです」
国谷「成長はすべての人に恩恵をもたらすという、いわゆる『トリクルダウン効果』については、どのような見方をしてますか」
ピケティ「市場まかせではすべての問題を解決できません。自然にまかせておけばつり合いが取れると考えるのは誤りです」
国谷「お話を伺うと、『市場メカニズムの万能性』を信じていらっしゃらないのではないかと思いますが・・・」
ピケティ「私たちには市場の力をコントロールする民主的な制度が必要です。そして、利益が資本と労働のどちらか一方に偏らないようにしなければいけません」
国谷「つまり、資本・資産の拡大と、格差の広がりをコントロールできなくなってきたということですか」
ピケティ「富裕層の割合が異常な速さで増え続けています。これからどうなってしまうのか、誰にも分りません。まず、何が起きているかを知る必要があります。金融の透明性を高め、国境を越えて資本に対する情報を共有するのです」
国谷「本の中で『世界のGDPの10%の富が行方不明だ』という研究者の報告を引用しています。だからこそ透明性が重要だと?」
ピケティ「その通りです。タックスヘイブンこそが格差を生む大きな要因です。これは民主主義に対する挑戦です。タックスヘイブンを放置したまま貿易自由化を進め、多国籍企業に最小限の課税もせずにいたら、グローバル化が自分たちのためにならないと考える人が増えるでしょう」