「イスラム国」に捕われていたジャーナリストの後藤健二さん(47)が殺害された。ネットの映像では、オレンジ色の服を着てひざまずく後藤さんの脇に黒づくめの男が立ち、ナイフを突きつけながら英語で「安倍(首相)よ、お前の無謀な判断のために、このナイフは健二を殺すのみならず日本人を見つければ殺戮を続けることになる。さあ悪夢を始めよう」と話していた。切り替わった静止画像に横たわる遺体があった。
安倍首相は「テロリストたちを決して許さない。罪を償わせるために、国際社会と連携していく」と語ったが、先に殺害されたとみられる湯川遙菜さん(42)とあわせ、日本政府はなすすべがなかった。
後藤さんの妻はロンドンのジャーナリスト支援機関を通じて、「大きな喪失を感じていますが、イラクやソマリア、シリアなどの紛争地域で、人々の窮状を伝えてきた夫を誇りに思います。子どもたちを通して戦争の悲劇を伝えることに情熱をもやしていました」というコメントを出した。
安倍首相の中東2億ドル支援―テロ側が気付いた「日本人人質」の利用価値
そもそもが安倍首相の中東訪問で始まった。すでに湯川さんと後藤さんの拉致はわかっており、非公開だったがアンマンに現地対策本部もできていた。そのさなかに、エジプトで「イスラム国」対策に2億ドルの拠出を表明した。これで「イスラム国」は日本人2人の「利用価値」に気付いたのだろう。3日には同じ2億ドルの身代金を要求してきた。
むろんこんな金額を払うはずもないが、日本は中東の周辺諸国へ協力を要請する以外に人質救出の手だてはなかった。そして1週間後に局面が変わる。「イスラム国」側は湯川さん殺害の画像を公開し、要求をヨルダンで判決を受けた女性死刑囚と後藤さんとの交換に切り替えた。応じなければ「ヨルダン人パイロットを殺す」と言っていた。
これで日本とヨルダンの連携にくさびを打ち込んだ。件の死刑囚はヨルダンがパイロットとの交換交渉していたものだったからだ。ヨルダン政府は動かず、27日に再度同じ要求がなされたが、ヨルダン側は「パイロットの生存の確認」を求め、「死刑囚とそれ以外の囚人の命運がかっている」と強い声明を出して対抗した。「イスラム国」はこれにまったく応えず、映像メッセージ通り後藤さんを殺害した。
「テロに屈しない」勇ましいだけでいいのか・・・したたかな米国や欧州
ジャーナリストの常岡浩介さんはこう話す。「2人の脅迫ビデオが出た時点で危ないなと思いました。これまで解放された人たちは、脅迫ビデオが出る前に解放されているからです。拘束された直後の交渉が大事だった」
麗沢大の水口章教授は「家族へ送られた条件などに対応した場合は解放されている」という。「イスラム国」は後藤さんの妻にメールを送ってきたが、政府はこれにどう対応したのだろうか。
安倍首相は今後も「テロに屈することはない。ヨルダンを含む中東への食糧、医療などの人道支援をさらに拡充し、テロとの戦いで責任をはたしていく」と勇ましい。欧米は「テロに妥協しない」と言いながら、裏ではしたたかに身代金を払って人質を取り返している。勇ましいだけでいいのか。世界中で日本人が狙われる状況ができたことは間違いない。
キャスターの齋藤孝「イスラム国というのはまともな交渉ができる相手ではなかったということですよね。直接交渉すれば国として認めたことになります。日本政府としてやれることは限られていたと思います」
いや、直接交渉をヨルダンやトルコに委ねていたということだろう。