盗人を捕らえて縄を綯うようだが、「イスラム国」についての情報が少ないので、『週刊現代』の「これから始まるイスラム国『血の復讐』とその能力」から、イスラム国についての部分だけを引用してみよう。
外交官として中東各国の大使館に勤務し、2006年から10年まで駐シリア特命全権大使を務め、「イスラム国の正体」(朝日新書)を出した国枝昌樹氏はこう話す。<「イスラム過激派がときに残虐なことをして世間を驚かせることはそれまでもありましたが、米国人記者らのように、首を斬ってそれを次々と世界の目にさらすなどということは、他の組織では滅多にありません。
さらに世間を驚かせたのは、その実行役として記者の首を斬った男が、ロンドン出身の英国人だったと、ほぼ特定されたことです」>
週刊現代によると、英国人が参加している理由は、彼らが他のイスラム過激派などに比べて格段にインターネットでの情報発信が巧みだからだそうだ。
同じ書名(編集者の劣化の象徴だね)「イスラム国の正体」(ベスト新書)を書いた軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はシリア人女性と結婚し、シリア情勢の混乱にプライベートでも巻き込まれた経験を持つ。黒井氏が話す。<「イスラム国には、ツイッターやYouTubeを扱う広報セクションがあり、外国人の参加者が各母国語を使って情報発信をしていると考えられます。
彼らのなかには、欧米やチュニジアなどから来た、オタク的な映像マニアがいて、若者向けのテレビゲームでも作るような感覚で高品質な映像を作っている」>
小泉純一郎、森喜朗といった元首相の通訳を務め、中東情勢に詳しいアラビア語同時通訳の新谷恵司氏もこう語る。<「極端な暴力はイスラムの教義とは何の関係もありません。しかし、『聖戦に赴き殉教したの者は天国で永遠の幸福を与えられる』と教えられるのです。人間は必ず死ぬ。この世はあっという間だが、死後の世界は永遠に続く。その永遠の時間を、天国の一番高い所で過ごせるのだと言われると、現世の生活が苦しい人にはこの教えが麻薬のように魅力的に聞こえてしまう」>
一説にはイスラム国に行って戦士になれば月給6000ドル(約72万円)が支給されるとも言われ、イスラム国が魅力的な「就職先」として世界中から若者を集める求心力になっているという。
日本の若者「イラク国のために」とテロ起こす不安
国枝氏はさらにこう話す。<「シリアで50ヵ所、イラクで20ヵ所もの油田を支配し、1日の売り上げは計算上800万ドル(約9億6000万円)にもなるので、この原油の密貿易で得た利益が活動の原資だろうという人もいます。
ただ私の見立てでは、密輸では輸送手段が限られ、いまのイスラム国には石油技術者もおらず原油の質も悪いので、原油よりも支配地域から集めた税金や、強盗、欧米人の人質に対する身代金などが、実質的に組織を支えている原資なのではないかと思います。また初期の段階で近隣のアラブ諸国から相当な資金流入もあったと聞いています」>
さらに、イスラム国は本格的に国家を運営しようとしているというのだ。<「イスラム国は民衆に、自分たちを受け入れる限り悪いようにはしないと言っている。シリアの支配地域では商人たちから2ヵ月に1回20ドル相当の税金を取るのですが、律儀に領収証を出す。アサド政権時代には税金はもう少し高く、領収書も出さなかったため、一度税金を払ったのに別の徴税官が来て、税金を出せと言ってくる不正もありました。そうしたことで民衆の中にも一定の理解を示す人がおり、イスラム国はますます力を蓄えている」>
パリでテロ事件を起こした若者たちは、イスラム国に共感した連中が自発的に引き起こしたのではないかという見方も出ている。そのところを日本の公安関係者が危惧しているというのだ。
<「イスラム国本体ではなく、その思想に共感する小さな組織や個人が『イスラム国のために』としてテロを行う。イスラム国の名のもとに、あらゆる不満のうっぷん晴らしをする。この動きが世界に広がれば、やがてはコーランを読んだこともない日本の若者が、『イスラム国のため』とテロを起こすことにもなりかねない」>
この不安が現実のものになったとき、日本人はどういう行動をとるのだろう。その試金石が今回の人質事件であるはずだ。