特定の人種や民族に対して差別や憎しみをあおるのをヘイトスピーチというが、日本国内では在日韓国人・朝鮮人に対するヘイトスピーチが各地で毎週のように行われており、収束の兆しは一向に見えない。
ヘイトスピーチの一例として番組で紹介されたのは、「韓国人は出て行け」「殺せ、殺せ、朝鮮人」「ゴキブリ、うじ虫、朝鮮人」「朝鮮人は全員死にさらせ、首をつれ」「鶴橋大虐殺を実行しますよ」といった言葉だ。
「日本政府は事の重大さを自覚せよ。暴力や殺害につながりかねない」
こうした「スピーチ」を行う団体の多くは、在日韓国人・朝鮮人が特権を与えられ得をしているなどと、「ありえないような論理」(徳島大・樋口直人准教授)を主張する。それを真に受けて「許せない。不公平」と憤る人たちを取り込んでいる。
ヘイトスピーチが横行する日本の現状に、国連も懸念を強めていて、昨年8月(2014年)には日本に法規制を急ぐよう勧告した。「日本政府は事の重大さを自覚しなければならない。ヘイトスピーチは暴力や殺害につながりかねない」(国連人種差別撤廃委員会副委員長)というものだった。
6年前に国連から日本と同様の勧告を受けたギリシャでは、アジアや中東からの移民を対象とした襲撃事件が頻発している。13年には移民差別を批判していた人気歌手が殺害される事件も発生した。移民排斥を訴えるグループは政界に進出し、国会で16議席を持ち、移民がギリシャ人の雇用を奪っていると主張して被害意識をあおって支持を拡大させている。
過去を遡れば、ヒトラーのナチスがユダヤ人がドイツ人の富を奪っているなどと標的にしたケースがある。ナチスはドイツ人の被害意識をあおって支持を集め、のちに600万人ともされるユダヤ人の虐殺へとつながっていった。
煽るメディア「韓国・中国叩くと売れる」
昭和史を研究する作家の保阪正康さんは、昨今の風潮のなかで、メディアの重要性を指摘する。メディアには「反日、売国、国賊」といった「戦時中、異論を封じる際に使われた言葉と共通点を感じる」言葉が氾濫しているからだ。
「こういった乱暴な言葉が社会にまき散らされ、『反日』『売国奴』って言われやしないかと恐れ、おびえる人が出て、言論の自由を享受しなくなる人が増える。そのことが恐ろしいんです」
大手雑誌記者によると、出版業界などでは韓国や中国に関する、より攻撃的で過激な内容が求められているそうだ。「とにかく韓国を叩けみたいな企画もあるし、何もないときでも、とにかくやれみたいなのはある。やっぱり売れる。『まずい』と思うなら買わなければいい話だが、結果的にあおってるのかもしれない」
保坂氏は言う。「自分たちは100%正しく、美しく、よくて、相手が悪いんだとなったら、他のものが見えなくなる恐れがあります。社会全体が多様性を失うし、知性も失うし、暴力的な方向へ近づくことになります」
*NHKクローズアップ現代(2015年1月13日放送「ヘイトスピーチを問う~戦後70年 いま何が~」)