時代錯誤なカウボーイの父と、虫の研究で博士号を持つ変わり者の母、女優を目指す姉、父そっくりの弟。そして、10歳にして世紀の発明家であるのが僕、T.S.スピヴェット。弟と僕は双子だけれど、大人しくて知性派の僕に比べて、やんちゃで無邪気な弟は父の自慢だ。そんな弟のことが誇らしくも、僕は少しだけさみしい。
その日常ががっしゃんと崩れたのは1年前だった。銃の暴発で弟は命を落とし、父はますます無口になり、母は家族のことすら忘れて研究に没頭した。そして僕は、ある重大な発明を成し遂げた。ずばり、その名も「永久運動装置」。送った図面は世界的な賞を取り、僕はワシントンでの受賞スピーチに招かれた。家族に必要とされていない僕を支えるのは研究だけだ。僕はアメリカを横断し、授賞式への出席を敢行することにした。
家族が恋しい。故郷が恋しい。でも自分の場所はそこにない
3D作品と聞いて「バトル物でもないのに飛び出す必要ってあるの」とネガティブに思っていたのだけれど、おだやかな稲のうねりや走りゆく列車の動きなど、立体的に広がる田園風景の美しさは格別である。目が疲れない3Dに初めて出合いました(必ずしも必要かと言われると、なくても綺麗だとは思うけれど)
弟を失った悲しみと弟のようになれない自分へのもどかしさのはざまで、ワシントンへ向かうスピヴェットの旅路は至極順調に進んでいく。車掌との追いかけっこやずる休みを疑う警察官を出しぬく冒険劇は、ときにユーモラスで、ときにスリリングだが、全編を通してどこか物悲しい。いくら頭が良くても、10歳の子どもなのだ。家族が恋しい。故郷が恋しい。でも自分の場所はもうそこにない。悲愴な表情に思わず「そんなことないよ!」と声をかけたくなる。
スピヴェットはワシントンへ着き、聴衆を前に「天才発明家」としてスピーチを行う。スピヴェットの明晰な頭脳と内心の葛藤に皆が心を打たれるが、スピヴェットは科学の世界でも自分は客寄せパンダにしか過ぎないのだと一層心を閉ざしてしまう。
エンディングの大団円で「ホッ!」
まだ自分探しの旅は続くの、どうなっちゃうのと不安になるが、エンディングは誰もが予想した大団円でひと安心。序盤からハラハラさせられた分、スピヴェットの笑顔が染みる。弟の死の責任を誰に求めることもできず、自分を責める気持ちで折れそうになっていたのはみんな同じだった。その事実を受け入れた瞬間、仏頂面の仮面がすとんと落ちる。
真っ白な肌に透き通りそうなブロンド。生意気そうに結ばれた口に、赤みを帯びた頬。とにかく、白人少年の「カワイイ」を全部集約したようなスピヴェットの動きひとつひとつが愛らしく、切ない。こんな可愛い子にこんな顔させるなんて!両親が君を愛してないはずがないでしょう!とやきもきすること間違いなし。とにかくビジュアルが優れているので、筋よりも目で楽しんでほしい映画でした。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆