全国の刑務所で高齢の受刑者が急増している。65歳以上が20年前の5倍、2200人にもなり、介護施設並みのケアも必要になっている。深刻なのはこれら高齢受刑者の大半が再犯であることだ。出所後、社会に受け入れられず、貧困からまた罪を犯す、負の連鎖の果てだ。どうしたらこれを断ち切れるのか。
3回服役したという千葉の70代の男性は典型だ。初犯は65歳のときだった。20年間経営してきた会社が倒産して、生活のためくず鉄を盗んだ。2年間服役して出所したが、前科者に就職口はなかった。家族からも疎外されて、生活保護も知らず、70歳、73歳とさい銭泥で捕まった。
府中刑務所の65歳以上400人!10年で2倍―認知症や介護など9割が要治療
先月(2014年11月)に発表された犯罪白書では、昨年65歳以上の検挙者は4万6243人。全体の数は減っているのに、高齢者は増えている。高齢者の犯罪には2つの特徴がある。万引きや無銭飲食などの軽犯罪の積み重ねと再犯だ。7割が5年以内に刑務所に舞い戻る。負の連鎖から抜け出せないのだ。
受刑者数で全国一の府中刑務所の65歳以上の受刑者は400人。10年で2倍だ。9割が何らかの治療を受けている。認知症もいる。要介護者もいる。職員が体を拭き、おむつを交換する。あたかも介護施設である。亡くなった受刑者は5年間で78人。引き取り手のない人の供養も刑務所が行っている。医療費、特別食、外部入院の世話と、職員の負担も限界に近い。
出所後、振り込め詐欺グループに取り込まれた例もある。昨年逮捕された71歳の男性は現金の受け取り屋だった。公開手配された者もいる。3回逮捕された80代の男性は「簡単な仕事だ」と誘われた。やはり出所後に仕事のない連中だったという。「生活のためやむをえず」と話す。
元刑務所勤務で龍谷大学大学院の浜井浩一教授は、「日本の司法制度は罰を与えて罪を償わせる。そこで終わりなんです。司法が社会制度から孤立していて、受刑者の更生という観点が薄い。社会に戻った時どうするか、罪の原因を考えないと再犯防止にならないと思います」と語る。
東京地検は社会福祉士を採用―服役前から生活支援
司法と福祉を連携させる取り組みは始まっていた。長崎県の地域生活定着支援センターだ。出所者を福祉事務所につなぎ、生活保護や医療の手助けをする。5年前に国のモデル事業としてスタートし、NPO法人が運営している。ここで立ち直った高齢者は少なくない。いま老人ホームにいる78歳の男性は、生活苦から盗みを重ね、15回服役した。センターの支援で4年前、受け入れ先が見つかって落ち着いた。「お世話になったから」と毎日3時半に起きて、ホーム内に新聞を配る。「ありがとうといわれるのがうれしい」と屈託のない笑顔をみせていた。
府中刑務所は出所間近の高齢者に、社会で孤立しないための訓練と教育をしている。「2度と帰ってこないように。刑務所が試されている」という。東京地検はさらに進んで、全国に先駆けて社会福祉士を正規採用した。服役させる前からの支援である。
60代後半のホームレスの置き引き事件があった。身寄りもなく弁済もできない。社会福祉士は「生活保護があれば立ち直れる」と社会福祉事務所につなぎ、事件は起訴猶予になった。これまでに500人を福祉事務所につないで社会復帰させた。
浜井教授は「受刑者で、刑務所に入る前に幸せだった人は一人もいない」という。刑務所で受刑者の貧困に始まる「負の連鎖」を見た。「(再犯を)止める人がいないから」
老人ホームの男性だって支援がなければ16回目の服役になっていたことだろう。彼らの社会復帰を自分のこととして考えはじめた人がいた。日本人も捨てものではない。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年12月4日放送「犯罪を繰り返す高齢者~負の連鎖をどう断つか~」)