百田尚樹「殉愛」訴訟なぜか週刊誌は黙殺!作家スキャンダルはタブー?

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<「一ヶ月近くたって巷でこれだけ話題になっても、どの週刊誌も一行も報じないではないか。やしき氏(やしきたかじん=筆者注)の長女がこの本によって、『名誉を傷つけられた』と提訴し、出版差し止めを要求した。が、相変わらずテレビも週刊誌も全く報道しない。私はこのこともすごい不気味さを感じるものである。この言論統制は何なんだ!
   大手の芸能事務所に言われたとおりのことしかしない、テレビのワイドショーなんかとっくに見限っている。けれど週刊誌の使命は、こうしたものもきちんと報道することでしょう。ネットのことなんか信用しない、という言いわけはあたっていない。そもそも、『やしきたかじんの新妻は遺産めあてではないか』と最初に書きたてたのは週刊誌ではなかったか」>

   林真理子が『週刊文春』の連載「夜ふけのなわとび」で怒る怒る。週刊誌が自分の役割を果たさないのはどういうこっちゃ!と真っ当に怒り狂っている。

   この騒動は百田尚樹という物書きが幻冬舎から出した「殉愛」という本についてである。先日亡くなった大阪のカリスマ芸人やしきたかじんの闘病の日々と、彼を献身的に介護する新妻との日々を描いた『ベストセラー狙い』のお涙ちょうだいノンフィクションだ。

   だが、この新妻というのが、実はイタリア人と結婚していて「重婚」の疑いがあるというのである。また、やしきの友人でもあり、彼の楽曲に詞を提供していた作詞家の及川眠子が、殉愛の中で資料として提示されているたかじん「自筆」とされるメモの筆跡について、真贋を疑問視するツイートをしたのだ。

「『殉愛』の表紙に感じたすっごい違和感。なんでだろーと思っていたが、はたと気付いた。たかじんってあんな字を書いたっけ? もっと読みづらい変ちくりんな字だった記憶が...。病気になると筆跡まで変わっちゃうのかな?」

そのうえ、やしきの長女が幻冬舎に対して「出版差し止めと1100万円の損害賠償を求める」訴訟を東京地裁に起こしたのである。

   これに対して、百田は「裁判は面白いことになると思う。虚偽と言われては、本には敢えて書かなかった資料その他を法廷に出すことになる。傍聴人がびっくりするやろうな」とツイートしたものの削除してしまった。Web上のまとめサイトでは、「百田尚樹氏はほぼ作家生命終了」とまで断定されてしまっている。

   これだけ話題になっている本についての「醜聞」は、週刊誌の格好のネタであるはずだが、不可解なことにどこも取り上げないのだ。『週刊現代』を出している講談社は「海賊とよばれた男」が大ベストセラーになっている。『週刊新潮』は百田の連載が終わったばかり。タブーは他誌に比べてないはずの『週刊文春』だが、林によると「近いうちに連載が始まるらしい」から、これまた書かない。小学館の『週刊ポスト』も百田の連載をアテにしているのかもしれない。

「都合の悪いことは知らんぷり。誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」(林真理子)

   私がここでも何度かいっているが、いまやメディアにとってのタブーは天皇でも創価学会でも電通でもない。作家なのである。昔、『噂の真相』という雑誌が出ていたときは、毎号作家についてのスキャンダルや批判が載っていたが、いまや作家について、それもベストセラー作家のスキャンダルなど読みたくてもどこを探しても見つからない。

<私は週刊誌に言いたい。もうジャ-ナリズムなんて名乗らないほうがいい。自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか>(林真理子)

   私も週刊誌OBであるから恥ずかしくて仕方ない。ネットで現場の記者や編集者はそんな状況を打破しようとしているというコメントを見つけた。「文春や現代、ポストの週刊誌編集部には関西生まれの記者や編集者も多く、彼らは子供の頃からたかじんの番組に慣れ親しみ、親近感を持っており、今の状況は許せないと思っている。若手記者たちは『企画を出しても通らない!』と憤っています。中には仕方なく自腹で取材に動いたり、情報収集をしはじめる記者もいます。ある版元の、ノンフィクションが得意の敏腕編集者の下には、こうした情報が続々と集まっていると聞きました。騒動の裏側が本格的に暴かれる日も近いのでは」(夕刊紙記者)

   これに似たようなことを私も聞いているが、どこまでやれるかはなはだ心許ない。この本の版元は見城徹という人間がやっている幻冬舎で、彼の裏には芸能界の「ドン」といわれている周防郁雄がいるそうだ。百田はベストセラー作家であり安倍首相のお友達である。こ程度の「圧力」に屈して、この「事件」を書かないとしたら週刊誌など廃刊したほうがいい。

   私は百田の「永遠のゼロ」を30ページほど読んで捨ててしまった程度の読者である。したがって、百田の物書きとしての才能を云々することはしない。だが、「文は人なり」である。安倍首相のような人間と親しいことをひけらかせ、下劣な発言をたびたび繰り返している人間のものなど読むに値するわけはない。そんなものを読んでいる閑は私にはない。

   殉愛は現在市場に30万部ほど出回っているそうだが、出版関係者によれば「半分も売れれば上出来ではないのか」と言われるほど失速しているという。この件は百田という物書きの「終わりの始まり」であること間違いないようだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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