「エッ、なにこれ」
「すご~い」
東京都立府中西高校の朝、通学してきた生徒たちが教室の黒板いっぱいに描かれた見事なクジャクの絵に驚きの声を上げた。描いたのは武蔵野美術大学の学生で、学校の許可を得て生徒に内緒で前日に1日がかりで仕上げた大作だった。
公立学校で美術の授業時間が減らされていることを心配し、美術の素晴らしさを伝えたいとムサビの学生たちが2012年から続けている「黒板ジャック」という活動だ。
武蔵野美術大の学生たち「美術の楽しさもっと知って!」
今年カンバスとなったのは1、2年生の全16教室の黒板で、3年生の江口実沙さんと杉山有沙さんが描いた。前日の朝10時から描き始め、使うチョークは8色で、細かい部分はチョークの先端を削って描き、輪郭を際立たせるために水で濡らした筆でなぞる技法も使った。
休憩をとったのは昼の5分間だけ。2人とも腕がパンパンになったという。それでも「黒板に落書きしたら怒られる。でも、やり切ったらこんなにすごい楽しい作品ができるというのが伝わったらいいですね」と江口さんは話す。
この日、完成させたのはクジャクのほか、陰影のある赤富士やコミックな骸骨が踊る力作もあった。翌朝、生徒たちが驚く中、教室を訪れた杉山さんが「授業が始まるので消したいと思いますが、手伝ってくれますか」と言うと、生徒から「もったいない。もったいない」の声が上がった。
すぐ消されてしまう美しさと一瞬の大切さ
すぐに消されてしまうという点がチョークアートの美しさで、すぐに消えてしまうことで一瞬を大事にする―生徒たちにとってこの日の朝が特別な朝になることが大事だという。3年間の活動で100枚の黒板ジャックを完成させた顧問の三澤一実教授は「これからは地方の学校でもやっていきたい」と熱を入れている。
松尾貴史(タレント)「チョークで描くと薄っぺらな印象になるが、これは重厚な奥行とか重量感が出ていて、すごく面白い。表現することの面白さ、可能性の大きさみたいなものを若いときに気づくって、国全体の力になるんじゃないかと思います」
カネに結びつかない美術の時間を減らし、理系偏重する文部科学省の方針をちょっぴり批判か。