長編2作品目となるデスティン・クレットン監督が、心に傷を負ったティーンエイジャーをケアする短期保護施設(ショート・ターム)を描き、低予算映画ながら各国の映画祭で30以上の賞を獲得した。
ショート・タームのケアマネージャーのグレイスは、同僚のメイソンとの間に子供ができたが、心の闇を抱え、メイソンに打ち明けらない。入所してくる少年少女との交流を通して、グレイスは自らの深い闇を見つめ直していく。
「問題を抱えてない人間など存在しない」
10代の子供たちの表情や佇まいから不安定な心情を捉える画面に、おもわず引きつけられてしまう。監督は短期保護施設で2年間働いていたこともあって、リアリティは惨酷さを伴った美しさに溢れている。
子供たちは語らずとも「分かってほしい」という想いを心に宿している。大人はこの不安定な心と対峙した時、子供たちをさらに傷付けてしまうのではないかという「恐怖」を感じ、向き合うことを恐れてしまう。そんな大人の反応を見て、子供たちはさらに悲観的になり、大人に失望し、世の中に失望し、自己を肯定できなくなってしまう。
グレイスは子供たちの「痛み」が分かるが、子供たちに深く接すれば接するほど自分の心の傷口が開いてしまう。離れれば離れるほど怖く、近づいても怖いという「恐怖」を、心の距離として描いているのがこの映画の生命線で、「問題を抱えてない人間など存在しない」というテーマを導き出していく。低俗なお涙頂戴映画には存在しない「誠実さ」が映画祭などで評価された要因だろう。
正面から相手と向かい合う怖さがやがて絆に...
人間と向き合うことは怖い。人に優しくするのも、結局は自分のためだ。グレイスは自己と本当の意味で向き合うために、子供たちの痛みに真摯に向き合い、子供たちを信じた。恐怖がやがて絆になっていくことを、監督はハッピーエンド的には描かない。そこにはまだ悲しさが生きているし、未来という恐怖の存在を感じさせる。
人間の痛みを理解することで自分の痛みの正体に向き合うグレイスと子供たちが笑い合っている姿は、人間関係の理想を思わせる。
丸輪太郎
おススメ度☆☆☆☆