これまではギャンブルをやめられないのは意志が弱いからと、本人の資質の問題とされてきた。しかし、性格の問題ではなく、やめられない心の病気・精神疾患だという認識が広まっている。「ギャンブル依存症」だ。
キャスターの国谷裕子「1人のギャンブル依存症の人がいると、家族や周囲の人びと8人から10人に深刻な打撃を与えます。厚生労働省研究班の調査では、ギャンブル依存症の疑いのある人は536万人とされています」
患者の平均ギャンブル代1293万円
ギャンブル依存症の専門病棟がある福岡県北九州市の八幡厚生病院に入院中の男性患者は、これまでギャンブルをやめようとしては失敗を繰り返してきた。男性がパチンコを始めたのは大学に通っていたときだった。就職後もやめられず、同僚から借金を繰り返すようになる。返済をそのつど肩代わりしていたのは両親だ。ウソに気付いた両親はお金を渡すのをやめ、男性も入院治療を受けるなどパチンコをやめる努力をする。しかし衝動はおさまらなかった。
男性の父親は「家財道具を勝手に質屋に入れて換金し、パチンコの資金にし始めたんです。最初はゴルフクラブ、次にパソコン、テレビもいつの間にか消えていました。もはや自分が異常な行動をとっていることが分からなくなっていたんです」と語った。
男性は自宅に居づらくなり家を飛び出すが、それでもやめられず、専門病棟に入院した。退院後に働き始め、少しずつ借金を返している。同じ悩みを抱える自助グループの仲間とともに回復を目指しているが、再発の不安がいつもつきまとう。
国谷「ギャンブルをやめられないのは、通常の思考ができないほどに脳の機能が低下し、バランスが崩れているのが原因と見られています。アメリカでも、今年、精神疾患の診断基準が19年ぶりに改訂され、ギャンブル依存症は薬物やアルコールと同じ症状だと位置づけられ、判断基準も明確になりました」
福岡県の精神科医・作家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんが患者100人を対象に行った実態調査で、投じた金額は平均1293万円にのぼり、15%の配偶者がうつなどで精神科にかかっていたことが判明した。帚木氏は「ギャンブル依存症から抜け出すのは生やさしいことではありません。勝ったときの快感が忘れられず、脳が変わります」と話す。
勝つ快感とスリルを知った脳はもう元に戻らない
では、ギャンブルにのめりこむ身内とどう接すればいいのか。ギャンブル依存症の息子への接し方を変えたことで回復につなげた母親がいる。母親は「ある日突然、自宅を売り払い、息子の前から姿を消しました。何度、息子に鬼といわれたことか。それでも、息子がパチンコ依存症から抜け出してくれればと考えました」と語った。
母親が考え方を変えるきっかけになったのが精神科だった。担当した医師は、息子ではなく抑うつ状態だった母親を入院させ、治療することにした。精神科医・松元志朗氏は「ギャンブル依存症者は困っていないんです。治療の必要にも迫られていない。母親が困り果てているのでこちらの治療につなげるのが大事だったんです。家族が変わると、家族と本人の間の関係が変わります。すると、結果的に本人が変わるんです」と解説した。
北海道立精神保健福祉センターの田辺等所長はこう話す。「ギャンブルで勝った体験が強烈なイメージになり、それが強烈な欲求になってきます。ほかのゲームでの快感があまり感じられなくなります。依存症の8割方はごく平凡なサラリーマン、公務員、主婦、大学生。家族はなんとか家族の力で立ち直らせ、再出発してもらいたいと思うでしょうが、それは問題を先送りすることになります。
本人も反省はするが、ギャンブルに反応しやすくなっている脳の体質は治っていません。またなにかのきっかけでギャンブルに手を出すようになります。家族は一人で悩まないで、別の家族や信頼できる友人らに、自分の家庭にギャンブルの問題があると話すとか、インターネットで情報を検索されるといい。社会の中でギャンブルの依存症者を作ることは簡単ですが、それを回復させる仕組み、回復させる人を育てるのは大変なことです」
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年11月17日放送「『ギャンブル依存症』明らかになる病の実態」)