「家族のため」「国民のため」愛ゆえに耐え忍ぶ姿どこか違和感
......しかし、「愛する家族と、国民のために生き、幸せでした。立派でした。キャリアよりも、名声よりも、やっぱ愛よね」というラストにもろ手を挙げて賛成かというと、それはまた別の話である。
グレースは確かに幸せだったのかもしれないけれど、彼女がもし映画界に復帰していたなら、歴史が変わっていたかもしれない。家族を捨てて銀幕に戻ったというエピソードも、彼女にアーティストとしての凄味を付け足していたかも。
「愛ゆえに」という異議を唱えにくい正義を掲げることで、「身を尽くした」という生き方がすべて肯定されてしまうとしたら、こんなに怖いことはない。もちろん、この映画は彼女が天秤にかけたものの大きさも劇中できっちり描いたうえで、その「選択」に彼女の生き方を見てもらうのが趣旨だと思うので、あまりフェミニスト的に騒ぎ立てる気は毛頭ないのですが。
女の「耐え忍ぶ強さ」に価値を見出しがちな国民性を加味すると、ちょっぴり鼻息荒くなってしまう秋の夜なのでした。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆