実の親と義理の親、親と配偶者など、1人で複数の家族を介護する多重介護が増えている。要介護者の増加と介護期間の長期化、そして少子化による介護者の減少が背景にある。
キャスターの国谷裕子は「多重介護は50代から60代の現役世代に重くのしかかっています。専門家からは、このまま進めば離職や生活喪失の人が急増すると指摘されています」と指摘する。
病気の両親のケアで精神的にも肉体的にも限界
20年ほど前は1人の高齢者を5人で支えていたが、いまでは2人で支えなくてはならない。2025年には1.79人で1人だ。東京・大田区で92歳と87歳の両親を介護している行川修さんは休職して実家に帰ってきた。きっかけは、入院中の父親が治療を終えて自宅に戻ったことだった。同じころ、今度は母親の病状が悪化し、2人の介護を独身の行川さんが引き受けることになった。医師は行川さんの負担は1人で担える限界を超えていると懸念する。
在宅診療で行川さん宅を訪れている大田病院・高岡直子医師はこう話す。「1人を介護するだけでも大変です。2人は病気が違っていて、ケアのポイントも違う。精神的にも肉体的にも息子さん一人では担いきれません」
行川さんは「多重介護の難しさは予測できないことが同時に起こることです。何があってもすぐ対応できるよう、2人のそばで眠る日々が続いています」と語る。仕事に復帰するために介護施設への入所も考えたが、一緒に自宅で暮らしたいという両親の思いを尊重し、在宅介護を続けることにした。仕事を辞めることも考え始めているという。
脳梗塞で倒れ手足に痺れが残る夫と、認知症の母親の2人の介護をしている佐々木洋子さんは、「仕事と介護を両立させようとしても、経済的負担は重くなるばかりです」と話す。
母親を施設に入所させようとしても断られてしまう。現在の制度では、入所できるかどうかは要介護度の重さのみで判断されているからだ。要介護度の5段階評価で判別され、要介護度4、5の重い人が優先される。佐々木さんの母親は要介護度2だ。介護をする人の状況が考慮されないため、多重介護者を救う体制が整っていないのである。
英国では介護者支援法
こうした中、多重介護者の負担を軽くするための新しい動きが横浜市で始まっている。介護ヘルパー、看護師、医師、弁護士、市民後見人など、さまざまな人たちが連携しながら、介護者を支援していこうというのだ。介護される人の病気の状況、介護する人の置かれている状況(家族関係、経済面など)を一つ一つ書き出して、マップ化することで課題や解決策を見出していく。見える事例検討会・八森淳の「ある方を支えると家族も支えないといけない。地域のことも考えないといけない。マップを通して多職種で議論することでできるのではないか」という可能性を報じた。
国谷「介護サービスというのは家族介護を前提に始まりました。でも、介護をする家族の問題はこれまで見過ごされてきました。介護サービスの限界が来たような気がします」
日本ケアラー連盟の牧野史子代表理事はこう答えた。「一人で複数の家族を介護するのは限界があります。仕事を続けることも難しくなります。介護する人をサポートする制度が必要なんです。介護者への一番必要とされている支援は自分に何かあったときに急に使えるもの。さらに、介護者の生活保障につながる経済支援が求められています。
介護している人も健康的な生活を送る権利があるという人権擁護の視点が英国では介護者支援法という法律で守られていて、日本にもそういう考えを導入する時期に来ていると思います」
英国よりもさらに高齢化が進む日本にもかかわらず、こうした面でのサポートは大きく遅れている。
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年11月10日放送「『多重介護』担い手たちの悲鳴」)