フィギュアスケートのグランプリ(GP)中国杯で羽生結弦選手はケガを負いながら棄権せず、健闘した姿にファンは感動したが、危険な判断だったという見方も多い。
きのう10日(2014年11月)に精密検査を受け、頭部挫創、下あご挫創、腹部挫傷、左大腿挫傷、右足関節ねんざ、全治2~3週間という診断だった。
「ここで止めるとGPシリーズ最終戦で出られない」焦る気持ち...
羽生は衝突のあと1分以上も氷の上に横たわって動かなかった。頭とアゴから出血していた。脳震とうが懸念されたが、アメリカ・チームの医師の診断でこれはクリアされた。コーチのブライアン・オーサー氏は「会話もできたし、目の動きも問題なく、数字を逆から数えることもできた」と話した。
オーサー氏はこの時点で「体が一番大事だ」と棄権を促したが、羽生の意志は固かった。10分後の直前練習に頭に包帯、あごに絆創膏姿で現われ、そのまま本番に臨んだ。ジャンプで転倒しては立ち上がる姿に、テレビのアナウンサーまでが「がんばれ」と興奮状態で、4分半を滑り切った。終わった後はコーチに支えられて退場した。
羽生は腰痛のためこの半年競技には出られなかった。この大会に出ないと月末のGPシリーズ最終戦に出られなくなる。そうした判断もあったのではないかともいわれる。意欲は本人次第だが、強行出場はダメージはさらに深くするかもしれない。それを考えるのは周囲の役割だ。
右足首ねんざは衝突より5回の転倒原因
横浜市立大の中村格子客員教授(整形外科)は「心を鬼にしても周りが止めないといけなかった。止めた人はあとで悪者になっちゃうかもしれないけど...。
判断をみんなで共有するためにルールが必要」という。
プロスケーターの安藤美姫はさすがによく見ていた。「彼らしい強い気持ちが出ていましたね。でも、首から上のケガは、今後の選手生命を考えると、棄権したほうがよかったかもしれません。けがのうちの右足のねんざは、明らかに5回も転倒した無理な演技の結果だと思います」
司会の小倉智昭「安藤さんも練習でぶつかったことがありましたよね」
安藤「ありました。激しい衝突ではなかったし、選手権がかかっていたのでそのまま出ましたが、あとでダメージがありました。跳べないとか」
竹田圭吾(「ニューズウィーク日本版」編集長)「決断は選手のものだが、選手を守るのは周囲の義務だと思います」
出たいという強い気持ちがなくてはスポーツは成り立たない。この判断は難しい。