冷戦終結後、自由主義・資本主義体制に移行し、西側諸国と協調路線をとってきたロシアが、ウクライナ問題をきっかけに強硬姿勢に転じ、欧米との関係を最悪レベルになっている。ロシアが描く未来秩序とはどんなものなのか。
「ウクライナ市民の抗議行動を乗っ取った米国工作員」
ことし3月(2014年)、ロシアはクリミア半島を一方的にロシアに編入した。西側はこれを国際秩序への挑戦と受け取った。このときプーチン大統領は「物事には限度がある。欧米は一線を越えた。ウクライナにまで関与を強めたことが危機の原因だ」とアメリカを非難した。
ウクライナの政変では、アメリカの政治家、政府高官が直接乗り込んで、公然と親欧米派を支援した。モスクワでインターネットTVを経営 するフィリップ・レオンチェフ氏は「市民の抗議行動がロシアを敵視する勢力に乗っ取られていた。アメリカがこんな支援をするから世界は混乱状態になるのだと確信した」という。
これには伏線があった。ウクライナに初の欧米寄り政権ができた04年のオレンジ革命だ。レオンチェフ氏は当時、欧米にあこがれ、プーチンには批判的だったが、ボランティアで入ったウクライナで思いもよらぬ真実を見た。民主化運動を組織していたのはアメリカのNPO、特殊な任務を帯びた人たちだったのだ。今回もその延長と見る。プーチンの抱く危機感もこれだった。
ロシアの対米不信は何が原因なのか。ベルリンの壁が崩壊した直後の1990年に行われたゴルバチョフ書記長とベーカー国務長官との会談に遡る。ここでゴルバチョフはNATO(北大西洋条約機構)が東へ拡大しない条件で、統一ドイツのNATO加盟を認めたのだ、ベーカーも同意していた。
ところが、ソ連解体後、NATOは東へ拡大を続け、バルト3国も加えた。当時ロシア政策を担当していた米国務省幹部は、「ロシアを追い詰める意図はなかった」というが、ロシアはそうは受け取らなかった。
プーチン大統領は先のアジア・ヨーロッパ首脳会議で、アメリカの一極主義を厳しく批判して、「アメリカは国際秩序に欠かせない力の均衡を破壊した。いま立っているのは、新たなルールか、ルールなきゲームかの歴史的転換点だ」と語った。