脳腫瘍のため「安楽死する」と宣言していたアメリカの女性ブリタニー・メイナードさん(29)が、予告通り今月1日(2014年11月)に安楽死した。アメリカでは「彼女の死が安楽死の論議を変えた」といわれる。安楽死を考えるようになるだけでも違ってはくるだろう。
FBに動画「苦しんだまま死ななくてもいいと知って気持ちが楽になった」
ブリタニーさんはおととし結婚し、その直後から激しい頭痛に悩まされていた。今年1月に末期の脳腫瘍と診断され、4月には「余命半年」と宣告された。これを受けて、10月6日に「11月1日に安楽死する」とフェイスブックに動画を掲載して、賛否の論争が巻き起こっていた。
10月31日の最後の書き込みには、「親愛なる友人のみんな、愛する家族、さようなら。この恐ろしい病を前に、きょう尊厳を持って死ぬことを選びます。世界は美しい。さようなら世界」とあった。そして1日、家族が見守る中で、医師から処方された薬を自宅で服用して命を絶った。
「いつもの寝室で、母や夫に付き添ってもらい、好きな音楽をかけて」といっていた通りの、彼女のいう「人間らしい最後」だったようだ。直前の29日には、動画で「まだ体調もいいし、十分楽しいし、友だちや家族と笑い合えるから、今が『その時』ではないのかな」という一方で、「1週間前に怖い発作を体験しました。目の前の夫の名前が思いだせなかった」と話していた。
アメリカでも安楽死を認めているのは5州しかない。そのため、ブリタニーさんはそれまで住んでいたカリフォルニア州からオレゴン州へ移住していた。「苦しんだまま死ななくてもいいと知っただけで、言葉にならないほど気持ちが楽になった」と語っていた。夫のダンさんも「その時が来たと、彼女自身が決断できるのです。私も気持ちが楽になった」という。
安楽死法案を推進する団体にもメッセージを寄せていたが、当然これには「安楽死推進派が彼女の悲劇を利用している」と反発の声があがり大論争となった。「彼女に賛成だ。自分の人生は自分で決めるべきだ」「彼女を支持する。父がホスピスにいるが、苦しんでほしくない」「(安楽死などの)自殺は罪だ。間違っていると思う。これをいいこととして広めるのはよくない」
メディアは「29歳の女性が安楽死の議論を変えた」
ニューヨークの西橋麻衣子記者はこう伝える。「繊細な話題だけに、メディアもこれまで中立的な伝え方が多かったのですが、彼女の死を受けて、彼女の主張を尊重するような内容に変わりました」
「その勇敢さに畏怖の念を覚える。最後まで命を尊重した彼女の選択を称えるべき」(ニューヨーク・ポスト)、「29歳の女性が安楽死の議論を変えた」(USAトゥデー)、「安楽死の議論をどのように変えるか」(ワシントン・ポスト)
西橋「若い人たちを議論に引き込んだのが彼女の大きな遺産だといわれています」
この結果、従来はほぼ半々だった賛否が、「苦しんでいる場合は?」と聞くと、7割が安楽死を認めるようになったという。世界で安楽死を認めている国はオランダなどヨーロッパの4か国だけだ。日本では、たとえ本人の同意があっても嘱託殺人になる。
司会の小倉智昭「高齢者と若い人では安楽死の考えも違うと思いますがね」
安田洋祐(経済学者)「難しい問題ですが、ニューヨークなど都市部で肯定的になってきている印象が強い。アメリカも変わったのかなという印象です」
中江有里(俳優)「わかる気もしますが、日にちまで決めてというのは、私にはできないですね」
小倉「その立場にならないとわからないことかもしれないね」
自分ではなくても、家族も含めて考えると意外に身近な問題だ。苦しんで、あるいは見苦しく老いた姿に、「死んでホッとした」と思ったことのある人は決して少なくないのだから。