子どもたちの元気な声を聴くと大人も和む。ところが、その元気な声を騒音と感じる住民から保育園に苦情が相次いでいる。なかには住民が裁判に訴えるケースも起きているという。東京都が3月(2014年)に行った調査によると、都内の7割にあたる42の市区町村の保育園で子どもの声がうるさいという苦情が寄せられていることが分かった。NHKが調べた全国20の政令指定都市の7割にあたる18の自治体でも、同じような苦情が寄せられていた。
苦情を受ける対象の子どもたちと苦情を訴える人たち、主に高齢者はともに社会や地域の宝、尊重される存在として捉えられてきた。それがなぜ対立する存在になってしまったのか。
園庭で遊ぶ時間制限したり窓を閉め切ったり...
トラブルの背景には政府が待機児童解消のために急ピッチで進める保育施設の建設がある。この5年間で1000か所以上が作られ、今後も増える見通しだ。とくに住宅が密集する東京都では、住宅街の一角にあった公園をつぶし、突然、保育施設が出現してトラブルになるケースがある。
中野区の静かな住宅街の一角、お年寄りが秋は紅葉のきれいな公園だったという場所に、来年4月の開園を目指し認可保育園の建設が進んでいる。計画を知らされたお年寄りたちは、他の保育園を視察に行って子どもたちの声の大きさに驚いた。「普通の時はいいけど、病気で寝込むようなときはたまらないわね。うるさくて」と心配する。中野区による説明会が4回行われたが、住民から「どうしてここになったのか納得がいかない」と話し合いは平行線のままだという。
一方、住民から苦情が相次ぐ保育園では保育の仕方を見直すところも出てきている。昨年、都内にできた保育園は子どもたちが園庭で遊ぶ時間を制限している。さらに、子供の姿を見たくないという苦情もあって、日中でもカーテンを閉め、窓ガラスに目隠しのシールを張っている。保育園側は「自然の空気が入り、お日さまの光が入り、普通の人間として当たり前の生活を保育園のなかでも最大限与えたいですよ」と嘆くが、苦情は収まらない。
東京都は今後4年間に待機児童4万人分の受け皿を用意することになっており、このままでは騒音トラブルは増えるばかりだ。隣りの横浜市でも専門家が調査してところ、「大声を出さない」「楽器を使わない」など音が漏れるのを気遣う保育園が7割以上にのぼっていることが分かった。
調査をした横浜国立大大学院の田中稲子准教授(建築環境工学)は「子どもにとっては遊びが五感を発達させる成長そのものなので、子どもの発育に影響が出てくるのではないかと思う」と心配する。