エボラ出血熱に感染の疑いがあった男性は陰性とわかってひと安心だったが、あらためてこうした情報はどこまで開示すべきかが問われている。政府の対応はあれでよかったのか。いい教訓にする必要がある。
専門教授「知らせると混乱するだけ。メディアがあらぬ噂さがす」
羽田空港の検疫所から国土交通省に「全日空便の乗客にエボラ出血熱の疑い」という第1報が入ったのは27日(2014年10月)午後4時すぎだった。男性は午後6時半には隔離されたが、塩崎厚労相がこれを知ったのはテレビニュースからだった。塩崎の会見はいわばニュースの後追いだった。
この時点でも、国交相は航空会社、便名を公表するつもりはなく、厚労省も乗客への個別の連絡はしていない。男性が発熱、隔離された事実は乗り合わせた乗員・乗客には一切伝えられず、205人はいつも通りに空港から出て行ってしまった。
ゲストの浦島充佳・東京慈恵会医大教授は「今回は開示しなくてもよかったのではないか。メディアが報じたので、あらぬうわさをふせぐために開示せざるをえなかった」と語った。報道がいけないといわんばかりの口ぶりだ。
さらに、「大事なことは初期に封じ込めること。同時に感染者の人権を守ることです。疑い段階で開示するメリットはない。12時間遅れても混乱を助長することにはならない」ともいう。
しかし、それは結果論ではないのか。今回は陰性だったが、もし陽性だったら、何も知らずに街中に出て行ってしまった乗員・乗客205人をどうつかまえてどう知らせるのか。拡散の危険を考えたら人権がどうのといっている場合ではあるまい。
司会の小倉智昭は「乗客には知らされていなかったんですよ」と納得できないといった顔で語る。浦島教授は「ニュースや記者会見で知って(国民は)不安になったと思います。ひとこと声をかけておいてもよかったかもしれないですね」とのんきなものだ。
アメリカはいち早く名前と写真を公開して患者の情報収集
小倉が「これが陽性だったらどうなんですか」と突っ込んだが、浦島教授は「飛行機内で症状が出たような場合は(わかります)...」という。患者と乗り合わせて、何も知らされずに家族や友人と接触する乗客のことは念頭にないらしい。「初期の封じ込めが大事」といいながら、これでは封じ込められるわけがない。
梅津弥英子アナ「機内で隣り合わせた人と連絡がとれないこともあるのではないですか」
浦島教授「今回はいい教訓になりましたね。陽性とわかったときどうやってコンタクトをとるか、日本人はいいが、外国人だと難しいこともあるだろうから」
それがどんなに困難な作業で、時間との勝負だということもおわかりでないらしい。陰性とも陽性ともわからない段階から人の動きを最小限に食い止める措置が必要だろう。即ち情報の適切な開示だ。
田中良幸レポーターがそうしたケースでの厚労省などの対応を解説したが、イラストでは検疫官が「◯◯の席に座っていたこういう服装の人と接触はありましたか」と電話で聞いていた。そんな悠長なことで大丈夫なのか。空港を出る前に状況を伝えておけば結果は全然違うはず。
名前などの公表についても、浦島教授は「感染拡大を阻止するのならいいが、メリットがない場合は公表すべきではない」といっていた。「メリットがない」とはどういうことなのか。アメリカは名前も顔も公表している。
小倉「この問題では、本当はやりすぎということはないのではない」
その通り。人口密度の高い都市では情報をもとに各人が備えるのが一番。そ のために報道を大いに活用しないといけない。