「イスラム国」への危機感が高まっている。アメリカの空爆は1か月になったが、勢力は衰えない。集まった戦闘員は80か国から1万5000人という。「イスラム国」の実態を示す映像や証言が得られた。彼らと戦ったクルド人の民兵がいう。
「彼らは最新の兵器をもっていた。戦車はイラク軍から奪ったものだ。撃たれても進み、死ぬまで向かって来た」
死んだ戦闘員の持ち物には、薬物と注射器があった。明らかに麻薬だ。
米国内に経営するピザハウスに誘い出しPRビデオ
イスラム国が首都とするシリア北部のラッカでは、町の中央に黒い旗が立ち並び、人々は普通に行き交い、衣料品や雑貨の店が開いている。女性は全身黒づくめだ。黒塗りのパトカーは宗教警察で、治安組織が市民を監視していた。
トルコへ逃れた男性は「タバコを吸うとムチで撃たれた。逆らえば殺される。毎朝だれかの首が広場に掲げられていた」という。元通信技師は「防衛省も保健省も電力省もある。閣僚もいる。一般から税金も徴収している」と語っている。戦闘員には白人やアジア系もいた。「外国人の給料はシリア人の5~10倍。外国人の方が信用されている。わざわざ遠くから忠誠を誓いにきたんだから」
アメリカからシリアに向かおうとした若者の写真があった。米政府が把握しているだけで100人以上。女性もいる。
彼らを誘う巧妙な手口も見えてきた。この5月(2014年)にFBIに逮捕されたムフィド・エルフギーは、ソーシャルメディアを駆使して若者を勧誘していた。フェイスブックで13の名前を使って膨大な情報を発信していた。やり口はこうだ。
ネットの書き込みで不満を嗅ぎつけ、共感を書き込む。イスラム国の魅力と、行動する真の男を求めている旨を伝える。「この空白を埋めるものはいないか」と。次に彼が経営するピザハウスへ招待する。イスラム国に参加して幸せそうな若者の姿を写したPRビデオを見せる。衣食住に事欠かず、充実した生活が待っているとシリアへの渡航を促す。
ある弁護士は「ソーシャルメディアを使いこなす能力が勢力拡大の一因になっています。強力な人材募集のツールです」という。
アラビア語だけでなく各国語で呼びかけ
日本エネルギー経済研究所の保坂修司氏は「アルカイダの頃より洗練され、プロフェッショナルになっています。かつてはアラビア語だけだった言語も、 英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、インドネシア語からアルバニア語まであります」と話す。
この宣伝が若者の心の空白に食い込んでいく。「若く、悩みや怒りがある。なんらかの形で役に立つ場を求めている。その彼らに居場所、あるいは死に場所を与えるんです」
オバマ大統領は9月の国連総会で、「イスラム国」のメディア戦略に対抗しなければならないと訴えた。米国務省が作ったビデオは、モスクを爆破したり、同じイスラム教徒を崖から突き落とす残虐な処刑シーンなどを集めて、「考え直せ、近寄るな」とストレートだ。
450人がシリアへ渡ったというドイツも事態は深刻だ。ベルリンのNGOはネットを監視して、それらしい書き込みに反論を打ち込む。「心にすき間のできた若者に、自分で考える力を持たせたい」という。生徒の8割がイスラム教徒というベルリンの学校では、イスラム教徒のカウンセラーによるワークショップで活発な議論を続ける。「生徒の悩みを共有し、白か黒かではなく、多様な価値観をわからせる」とカウンセラーは言う。はたして効果はあがるのか。
日本でもシリアへ渡ろうとした北海道大生がいて愕然とした。他にもいたというではないか。心のすき間どころか、頭にもすき間がありそうな平和ぼけ。背筋が寒くなる。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年10月23日放送「『イスラム国』世界に広がる脅威」)