悲惨で過酷な戦場から奇跡的に帰還したマークは、愛する妻・ナークと再会して歓喜する。だが、村には「ナークはすでに死んでいる。ゴーストになって村にとどまっている」という噂が流れていた。一方、一緒に帰還した仲間たちは「本当は戦地に赴いたわれわれが死んでいるのではないか」とささやき合っている。いったい誰がゴーストで人間なのか。境界線があやふやになっていくが、周囲の雑音をよそにマークとナークは愛を深めていく。
タイでは知らぬ者はない怪談「メ・ナーク・プラカノーン」の映画化である。これまでにも何度も映画化されてきたが、バンジョン・ピサンタナクーン監督のこの映画は、タイで「アナと雪の女王」の約10倍の観客動員という大ヒットになった。
ミステリー、コメディー、ラブストーリーごった煮にしていいとこ取り
「メ・ナーク・プラカノーン」はプラカノーン村で非業の死を遂げたナークが、戦場に赴いた夫への未練ゆえに悪霊となり、おぞましい災いをもたらしたという伝説だ。さしずめ「四谷怪談」や「牡丹灯籠」といったところだろう。
怪談に「幽霊探し」というミステリー要素、コメディとラブストーリーを盛り込み、いいとこ取りをしているのだが、ツボを押さえて万人が楽しく見られるように仕上がっている。インド映画の娯楽要素と日本の怪談が持つ精神的恐怖が融合したような物語は観客を飽きさせない。
コメディ部分に監督の狙いが集約されている。ベタなギャグのオンパレードで幽霊探しを展開していくが、万国共通の笑いを模索しているのが良く分かり好感が持てる。丁寧な語り口と演出で、母国に伝わるお話の面白さを外に広めたいという想いが伝わってくる。子供も楽しめる「分かりやすさ」が空前のヒットを生んだ要因かもしれない。
マークを演じたマリオ・マウラーのお馬鹿っぷり、甘えっぷりは女性を惹きつけるに違いない。ナークを演じたダビカ・ホーンの美しさも見逃せない。モデル出身でタイ人とベルギー人の混血という彼女の存在が、ドタバタ感の中に極上のロマンティックなムードを与え、ディズニー作品のような恋として描かれる。その二人がラストに見せる「究極の愛」のカタチには思わず涙を流してしまう。
「笑って泣ける」とまんまのコピーだが、これほどありきたりなコピーがしっくりくる映画も稀だ。老若男女誰もが楽しめる作品だろう。家族で見るのにもぴったり。デートで見るのもオススメしたい。
おススメ度☆☆☆☆
丸輪 太郎