馬鹿真面目と時代錯誤の自己陶酔
とはいえ、全員が格好良すぎるのも考え物かも。とくに広末。あんた、いい女過ぎてこっちが辛いわ。中井貴一もねえ、一本気で素晴らしいんだけれどさ、あんたがた夫婦、もうちょっと私利私欲で動いてもいいんじゃないの。過去に藩から出された命令なんかに従う必要のない世の中で、時代錯誤と馬鹿にされて...。こちらとしては、もう少し利己的に感情との葛藤シーンが見たかったような気もする。けれど、そこで「私」を抑えて、中井貴一は井伊直弼のために、広末涼子は中井貴一のために生きるからこんなに健気で美しい、というわけです。
「蒼穹の昴」や「中原の虹」でもそうだったのだけれど、歴史上で悪名高い人物の慈しみの心や、暴君の顔の裏の穏やかさを描くという浅田次郎の得意技が炸裂していた。この作品でも、生前の井伊直弼の「季節の移ろいを愛し、民草の声に耳を傾けるエピソード」をがんがん投入してくるからこそ、中井貴一の「井伊直弼に惚れていたから恩に報いるために仇討ちに生きる」という超絶シンプルな動機が成り立ち、話自体を成立させている。
漢気と漢気のぶつかる殺陣シーンで映える雪の白さと血の赤、そして椿の赤。「時代は変われども、己の忠義にひたむきに生きよ」のメッセージが鼻につかずに、すんなり馴染む「古き良き武士道」映画でした。
(ばんふう)
おススメ度☆☆☆