「この国では、子どもたちの6人に1人が貧困にあえいでいます」
ショッキングなフレーズから始まったETV特集のテーマは「教育と貧困」だ。学習支援NPOに通う若者たちの肉声が貧困連鎖を解決することの難しさを物語っていた。
元高校教師の青砥恭さんらのNPO法人・さいたまユースサポートネットは、学校に通うことができなくなった青年たちに、交流と学習支援のための「たまり場」を無料で提供している。集まる若者の半数以上が、貧困の状態にあるという。
修学旅行にも行けなかった子ども時代
建設業界でのアルバイトをしながら通信制高校に通うアキラ(22)は幼い頃に父を亡くし、パートタイマーの母に育てられた。いまは母と兄弟の4人全員が働いているが、依然として暮らしは豊かにならない。働きづめの母に無理は言えず、塾や習い事はおろか、修学旅行にも行けない子ども時代を送った。
中学で勉強についていけなくなり、クラスで泥棒扱いされたことから不登校となる。中卒で働き始め建設現場などのアルバイトで食いつないでいる。稼ぎや労働環境の悪さから、「そんな仕事辞めた方が良い」と言われることもあるが、明日の保証がないのだから辞められない。働きながら卒業を目指してきた通信制高校も今年で在籍5年目。最近は「たまり場」からも足が遠のいてしまっている。
たまり場に来る若者の半数が途中で勉強を続けることを諦めてしまう。自分の中に潜むコンプレックスやあせりから、「できない」「わからない」と助けを求めることから逃げてしまうのだという。学校生活で「わからない」と言うと、「お前がだめだからだ」と否定されてきた子供たちは、さらけ出すこと、頼ることが総じて苦手な傾向にあるのだ。
学校の勉強についていけない...「先生は塾通いが前提の授業」
あかね(14)が不登校になったきっかけは授業についていけなくなったことだ。「先生は、みんな塾に通っている前提で授業を進めてしまう」。母は月収10万円のパートタイマーで、塾通いは金銭的に難しい。わらにもすがる思いで、青砥さんのNPOでの勉強が始まった。「高校では好きな美術に打ち込みたい」。あかねの目標は美術部の活動がさかんな公立高校に合格することだ。
彼女の葛藤がにじんできたのは、高校入試の面接練習のシーンだった。「中学生活で頑張ってきたことは」という問いに、あかねの目は泳ぎ、思いが言葉にならない。何度も喋りだそうとするが、最初のひと語が出てこない。不登校だったと言ったら落ちてしまうのではないか。青砥さんはそんなあかねに声をかける。
「『中学にはあまり通えていなかったけれど、好きな画の勉強を頑張ってきました』じゃ、だめなの?」
途端に表情がほぐれ、「それでいいんだ」と言葉が漏れた。
青砥さんが中退した若者200人から聞き取りを行ってかったのは、貧困家庭が抱えるリスクは、稼ぎ手不在という家庭環境や学校教育から離脱したことにも起因するコミュニケーション能力不足など、幾重にも絡み合い、解決を困難にしているということだ。NPO自体の資金繰りなど課題についても番組で伝えられた。「貧しいから教育が受けられず、教育が不十分だから良い職に付けません」という単純な因果関係に落とし込まず、問題に向き合う姿勢が伝わってくる内容だった。再放送だったが、何度見ても問題の大きさがやるせない。(放送2014年10月3日深夜0時)