通用しなくなった「円高なら海外生産。円安なら国内生産」
企業は対応を模索している。栃木・芳賀町の「富士セイラ」は家電や携帯電話用の特殊ネジのメーカーで、生産拠点を中国、フィリピン、タイに持って円高を乗り切ってきた。この仕組みが急速な円安で裏目に出た。だが、高須俊行社長は「数年かけて軌道に乗せたものを撤退はできない」という。現地は現地で立派に動いているのだ。
逆に外へ出ようというのが浜松の防音材・断熱材メーカー「ソフトプレン業」だ。円高のなかで日本に踏みとどまった。円安になれば回復すると踏んだが、一度海外へ出た取引先は円安になっても国内生産を増やさなかった。前嶋文明社長は「国内マーケットが小さくなっている。リスクはあるが、やれるときにやる。今がそのとき」という。
ダイキン、キヤノン、パナソニックなど国内生産を増やす企業もあるが、数は少ない。海外拠点のウエートが大きいからだ。自動車業界の海外生産比率は、トヨタ62.2%、日産80.5%、ホンダ80.5%だ。これでは円安だろうと何だろうと動けない。円安になっても輸出が増えない理由がこれだった。
経済産業研究所の中島厚志理事長はこう解説する。「これだけ海外生産・現地販売が進むと、従来のような円高なら海外、円安なら国内とはいかない。それを補う産業を国内でどう育てるか。あるいは輸出でなく、観光・サービスを強化するかということになります」
日本は輸出のGDP比が低いので、まだ輸出力発揮の余地はあるという。
円安の威力はたしかにあった。「お札をじゃんじゃん刷って」というお題目みたいなアベノミクスに肉付けしたのも、市場が主導した円安だ。いま政府は「誤算だった」といってるそうだが、企業の方がずっと先をいっている。虚業と実業の違いだろう。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年10月2日放送「急激な円安で何が...」)