舞妓になるため京都の老舗お茶屋の門を叩いた少女のサクセスストーリーだ。主演は800人のオーディションの中から選ばれた上白石萌音という現役高校生である。監督は社会派からコメディまで幅広い作品を世に送り続ける周防正行だ。
巧みに組み込まれたミュージカルシーン
物語はタイトルからも推察できるとおり、オードリー・ヘップバーン主演の名作「マイ・フェア・レディ」を下敷きにしている。津軽弁の祖父と鹿児島弁の祖母に育てられた主人公・春子は、南北の方言を巧みにミックスさせながら日常言葉を話すという、言語学者もびっくりのユニークな設定になっている。しかし、それが方言のスペシャリストで大学講師の京野(長谷川博己)の興味を引き、老舗のお茶屋の女将・千春(富司純子)のもとで舞妓修業をすることになる。
ミュージカル映画という触れ込みでやや身構えたが、ミュージカルシーンは全体の4割ほど。周防が「役者が上手に歌うのではなく、たとえばウッディ・アレン監督の『世界中がアイ・ラヴ・ユー』のように、その役柄や役者自身の個性を活かした歌にしたかった」と話すとおり、出演者が総出で歌って踊る「ザ・ミュージカル!」なシーンはさらにその半分ほどしかない。むしろ、時々出てくるソロのミュージカルシーンが全体のメリハリに繋がっていて、誰にも結末が読めるストーリーなのにだれることなく見られる。
みんなハッピーになれる安定感抜群のエンタメ映画
さらに、キャスティングが抜群に良いのも見どころだ。主演の上白石萌音の初々しさが、田舎から出てきて厳しい舞妓修行を少しずつ乗り越えていく主人公とそのまま重なり、次第に垢抜けていくさまは「これは演技なのか、地なのか」と惑わされるほど自然で、引き込まれる。
芸妓に比べて若くて芸も未熟な舞妓を「花街のアイドル」とし、急場しのぎで雇われたアルバイト舞妓役に現役アイドル(SKE48・松井珠理奈、AKB48・武藤十夢)を起用するところなどもじつにウマい。経験未熟な新人にはフレッシュな役を、花街の古株役は富司純子、岸部一徳、田畑智子などベテラン俳優陣、さらに草刈民代、渡辺えり、竹中直人、小日向文世などおなじみの周防組でしっかりと固め、まさに適材適所。この配役には拍手を送りたい。
世代を超えてハッピーになれる安定感抜群のエンタメ作品である。見終わって「舞妓はレディ~♪」と知らず知らずに歌っているはずです。
バード
おススメ度:☆☆☆☆