都会で真っ昼間に女児を連れ去る事件が増えている。今年1月(2014年)には神奈川県相模原市で小学5年生、札幌市では小学3年生、7月には倉敷市で小小学5年生と、いずれも幼い女の子が連れ去られる被害にあっている。
小学1年生の生田美玲ちゃん(6)は雑木林でバラバラ遺体で発見された。まだ多くの人の目がある夕方の住宅街、それも女児の自宅からわずか150メートルほど離れたところだった。増える女児の連れ去りをどう防ぐか、守るかを探った。
街に見守りの目なくなる夕方の一瞬
奈良市で10年前に起きた小学1年生の女児が殺害された事件をきっかけに、全国で子どもの安全を守る取り組みが進められてきた。9割にのぼる小学校で登下校時にボランティアや保護者による見守りが行われ、通学路の安全マップや防犯ブザー、不審者出没情報のメール配信など積極的な対策が講じられてきた。
その成果が表れたのか、警察庁によると10年前の平成16年に141件だった連れ去り事件は、5年前の平成20年には63件と半分以下に減った。ところが、防犯意識がマンネリ化したのか、不審者側に悪知恵がついたのか、その後は徐々に増え始め、平成25年は94件と5年間に1・5倍と逆戻りしてしまった。
この夏に起きた東京都内の連れ去り未遂事件も、商店が並ぶ普段は人通りの多い道だった。小学生の女児が一人で歩いていると、後ろから両腕をつかまれて駐車場に引きずり込まれそうになった。偶然に車で通りかかった人が声を掛けてくれたすきに女児は逃げることができ無事だった。
腕に大きなアザができた女児は当時の恐怖をこう話す。「後ろを向いたら変なおじさんがいたんです。そのまま前を向いて歩きだそうとしたら、腕をつかまれグイって...。どうすればいいのか分からなくなって怖かった」。女児が通う小学校ではこの事件の直前に、プリントで「不審者に話しかけられたら大声で叫んですぐ逃げよう」と教えていたが、女児は「はじめてでできませんでした」と話す。目の前には「子ども110番」と掲示のある店もあったが、日曜日の夕方で休み。周辺に事件が起きていることに気付いた人はいなかった。
遺体で発見された神戸市長田区の生田美怜ちゃん殺害事件も夕方に住宅地で連れ去られ、誰も気付かなかった。この地域で児童の見守り活動をしているリーダーの山本浩さん(79)は毎日目を配ってきた地域で事件が起きたことにショックを受け、「どうしたらこどもを守れるのかと考えたら、夜も眠れない」と話す。遺体発見現場周辺は人口減少が続き、5軒に1軒は空き家状態で、住民が不審者の行動に気付く機会が減少しているという。
未遂児童で「走って逃げた」は半分。2割が「何もできなかった」
2人の小学生の母親で、子供を狙った犯罪の調査や対策を研究しているNPO体験型安全教育支援機構の清水奈穂代表はこう報告する。「私たちが調査したところ、連れ去られようとして、走って逃げたが46.4%、大声を出したが2.5%、防犯ブザーを鳴らしたが0.8%、何もできなかったが19.7%でした。いままでやってきた教育の中の安全教育面が機能していないんです。不十分であることを示していると思います」
国谷裕子キャスター「どういった環境下だと子どもたちは危険な目にあいがちなのですか」
清水代表「犯罪というのは心、時間の隙間から生まれます。とくに時間の隙間で狙われることが多いんです。下校時の30分~1時間はパトロールの方たちがたくさんいて見守ってくださるんですが、それが終わった後に子どもが一人で歩くことになるんです。夕方で人々が忙しくなっているときで、子どもに目が注げなくなっている隙間に起きています。場所も通学路、公園、駐車場、公衆トイレが多いですね。
私たちは瞬間ボランティアと呼んでいるのですが、この子大丈夫かなと声を掛けてくれる人が一人でも増えればいいなと思っています」
「子どもたちを見守る」から一歩進めた「実践的な防犯教育」に取り組む学校も出てきた。静岡県では子どもを守るにはどうしたらいいかという防犯講座を開設し、そこで学んだ地域住民が防犯アドバイザーとして子どもたちに防犯意識を教える。小学校で開いたその防犯教室の模様が紹介されたが、不審者に背後から羽交い絞めにされたときは、両腕を上げて不審者との間にスキができた一瞬を利用して逃げる動作を教えていた。これは武道の技の一種を応用したものだが、大人の男にがっちり羽交い絞めにされた女児が実際に活用できるか疑わしい。
要は盲点をつくらないことだろう。この防犯教室でも児童はランドセルに防犯ブザーをぶら下げていたが、大人がスマホを手に持って歩くように、一人で歩くときには必ず防犯ブザーを手に持って歩くことを教えた方が実践的ではないか。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2014年10月1日放送「どう守る?子どもの安全~相次ぐ『連れ去り』事件~」)