肺として機能する最小単位に分割された母親の肺を2歳9か月の男児の肺に移植する世界初の手術に岡山大学病院の肺移植チームが成功した。西村綾子レポーターが順調に回復している男の子の病室を訪ねた。母親の手から食事をもらい、「美味しい?」という問いかけに、男の子は元気にうなずいた。
担当医「手術したために息が止まるかもしれない。迷いました」
埼玉県内に住む両親が男児の異変に気付いたのは今年4月(2014年)だった。病院の診断は肺が縮んで硬くなり、呼吸困難になる特発生性間質肺炎という難病だった。男児は人工呼吸器をつけても酸欠になる重篤の状態で、2歳の命をつなぎとめるには母親の肺の一部を移植しかなかった。
2歳9か月の肺の移植手術は国内最年少で、世界でも例がない。手術を引き受けたのは、これまで世界初や国内初の症例を数々手がけてきた岡山大の大藤剛宏准教授(47)だった。
8月29日、自衛隊の患者輸送機で埼玉から岡山大学に運ばれ、大藤准教授をチーフとする総勢30人の特別チームが組まれた。2日後の31日、11時間に及ぶ大手術を無事に終えた。
肺は5つの袋の分かれていて、生体肺移植は最も肺活量の多い下葉と呼ばれる部分移植するのが一般的だ。しかし、患者は乳幼児で大人の下葉では大きすぎる。大藤准教授が行った手術は、母親の肺を肺として機能する18個の最小単位に分割し、その一部を移植するものだった。「肺移植手術をやったがために息の根を止めてしまうことは起こりうる。肺移植が最後の命のともし火を消してはいけないので、(手術を)やらないという決断をしないといけないんじゃないか」と迷った。
ところが、「実際に患者さんの部屋に入って、この子は生きるのかそれとも手術してもダメなのか、データでは言い表せない何かを直感したんです。『いける』と思ったのです。この子の体から発散する、生きようとするオーラというか、力というか...」