山中教授「アルツハイマーや躁鬱病も新薬もできると考えています」
従来の薬の開発は、分子(原因物質)を見つけて薬を作る。対して、これは病態・症状を再現して、それに効くものを既存薬から探すというまったく違う アプローチだ。さらに、人間の細胞を使うから、(今回はマウスで確かめたが)動物実験がいらないかもしれない。妻木教授は「iPS細胞だからできる」いう。
この方式の可能性について山中教授はこう解説する。
「病状が再現できる病気、単一あるいは少ない遺伝子にかかわる病気の多くが対象になると思います。一般的なアルツハイマーや躁鬱病もiPS細胞で症状の一部が再現できるとわかってきました。新薬もできると考えています」
アルツハイマーについては、やはりiPS細胞研究所の井上治久教授が病状の再現に成功(病態を解明)した。「アミロイドβ」というタンパク質がたまると脳の神経細胞が死滅するが、富山化学工業が作った新薬(候補)「T-817MA」を使うと、脳細胞は死なないことを確認した。
ただ、人によって反応が異なり、「アミロイドβ」のたまり方、場所に3つのタイプがあり、新薬の効果にも差があることがわかった。ということは、効果のあがる患者を絞り込むことも可能になる。「薬の作り方を根底から変える革命的な手法」といわれる所以だ。
山中教授は「iPSを使うと、患者のだれに効果があって、だれには副作用が出るかもわかります。こうしたテーラーメード医療はコストもかかるからまだ夢だが、グループ分けによるイージーオーダーならiPSで十分できると思います」と語る。
山中教授はまた、「iPS細胞研究は地味なものです。新しい技術が活用されないジレンマと闘い続けてきました」とも言っている。どうやら、われわれが理解できるのは可能性のほんの一部だけらしい。それだけでも十分驚きなのだが...。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年9月18日放送「iPS細胞が変える『薬の常識』~最前線からの報告~」)