「アイアンマンレースにパパと出たい」
先天性の障害で、生まれたときから車いす生活のジュリアンの一言が、壊れかけた家族を再生させる。1年の大半を機上で過ごすパイロットの父と、障害を持つ息子と二人きりで毎日を過ごす母、唯一の兄弟である姉はすでに独立して家を出ている。
自分に対し、幼い頃とまったく同じように「可愛いぼくちゃん」と呼びかける母に「もう子どもじゃない」と反発するジュリアンだが、重度の障害ゆえ、母のサポートなしには暮らすこともできない。母も息子の放つ不穏な空気には気づいているが、どうしようもできない。
その生活に、ある日父親が入ってきた。失業して自宅で職探しを始めた父は、妻とも息子ともうまく距離感がつくれない。まともに向き合ったことがなかった車いすの息子、息子のことになるとヒステリックになる妻。息子の障害にも、妻の不満にも父は背を向けようとする。
そんなこう着状態を破ったのが息子の一言だった。父と一緒にトライアスロンに出る。当然、最初は無理だと突っぱねる父だったが、懸命に追いすがる息子にほだされる形でレース出場計画はだんだん現実味を帯びていく。
都合よすぎる展開に「現実はこうはいかないよね」
途中からの展開はお約束通りだ。練習中のけがが原因で母親からレースへの出場を反対されたり、それに反発して家出を敢行したり、出場を認めさせるために大会事務局に押し掛けたりと、盛り上がりポイントは随所に作ってあるのだけれど、全編を通してご都合主義の感が否めない。普通の50代のおっちゃんがこんなちゃちなトレーニングで、体重46キロの息子を背負って、水泳、バイク、ランの3ステージを走りきれるとは到底思えない。
加えて、母親にしろ医者にしろ、「周囲、もっと真剣に反対しなさいよ」と思うくらい「応援ムード」に入った後の逡巡のなさが気にかかる。本当に息子の障害をよく知る母親なら半狂乱で止めるんじゃないの。
厳しいようだが、どれだけ物語の中で苦難を乗り越え、奇跡的なエンディングを迎えたとしても、「現実はこうはいかないよね」と思わせてしまったら、元も子もない。実話ベースの奇跡の物語で人を感動させたいなら、下手に味付けせずに、実話に忠実にやるべきだと思ってしまう。特にこの「グレートデイズ」のように、モデルとされている親子の挑戦自体が超過酷かつ有名とくれば、その道のりをトレースするだけでも十分に面白い予感がする。
とはいえ、実際の大会で撮影されたというレースシーンは迫力十分。大団円のエンディングはやっぱりハッピーであることに違いはない。某民放の夏の大特番のマラソンを見ていると、必ず「これ絶対最後タクシー乗ってるっしょ」と疑う人がいるものですが、本作もちょっぴりそんな匂いがします。「これ絶対実話じゃないっしょ」とはいえ、私のハートが汚れているだけかもしれませんので、真偽のほどは劇場でお確かめください。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆