唐沢寿明が「本格科学冒険映画 20世紀少年」シリーズ以来5年ぶりに主演を務めたこの映画は、下積み時代に自身も経験したスーツアクターに主眼を置いた人間ドラマだ。
この道25年のベテランスーツアクター本城渉(唐沢寿明)は、ブルース・リーに憧れる熱血漢で、スーツアクターではなく、いつか自分の顔を出した映画に出たいという夢を持ちながらも叶わず、ついに妻子にも逃げられてしまう。そんなときに舞い込んできた特撮映画への顔出し出演オファーに舞い上がるが、大人の事情で新人アイドル一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)に役を奪われてしまう。
それでもめげない本城にハリウッド映画への出演という一世一代のチャンスがやってくる。しかし、それは命の危険もある危険なスタントだった。周囲の制止を振り切り、本城はヒーローになるために撮影スタジオへ向かう。
「蒲田行進曲」の階段落ちの特撮・ヒーロー版
日の目を見ない役者に焦点を当てた作品で真っ先に思い浮かぶのが、深作欣二監督の「蒲田行進曲」である。この映画も作りとしては良く似ている。加えて、特撮・ヒーローものへのリスペクトもエピソードの中にふんだんに盛り込まれているので、日本映画好きには好感を持って迎えられるだろう。
映画は作り、シナリオ、仕上げに至るまでとても丁寧に作られている。たとえば、福士蒼汰演じるリョウが本城に惹かれていくくだりは素晴らしく、生意気で嫌な奴であったキャラクターから徐々に脱却していき、中盤あたりで、見ている人はリョウの成功を本城たちとともに心から祈っていることに気づく。
そして、リョウの成長物語として中盤まで進んだストーリーは、終盤から本城の話にシフトしているので、単純な師弟モノの映画に終始していない。
クライマックスでは唐沢寿明が燃えさかる炎の中の百人斬りの殺陣を披露し、それはたしかに見応えはあるが、いかんせん物語の展開の中でハードルを上げすぎているため、ん?と首を捻ってしまう。「蒲田行進曲」の階段落ちに当たるラストが、ハリウッド映画の超危険スタントになっていて、そのハードルを越えられていない。また、撮影の方法、演出などに設定上の矛盾が生じているため、置き去りにされてしまう観客も少なくないだろう。
全体的には笑って泣ける素晴らしいエンターテイメント映画であり、原作のないオリジナル脚本でこの映画が作られたことが素晴らしい。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆