デング熱の国内感染者は10日(2014年9月)現在で、15の都道府県96人にのぼり不安が広がっている。ほとんどは東京・代々木公園とその周辺で蚊に刺された患者だが、海外にも東京にも行っていない千葉市内の60代男性が感染していたことが確認された。
なぜ迅速に食い止められなかったのか。不慣れな伝染病への備えが不十分で、医療機関の診断が手間取り、自治体の対応も後手に回ってしまった実態が浮かび上がってきた。
医療機関、自治体も知識・経験なく後手
最初に感染が確認されたのは埼玉県の10代女性だった。文化祭の出し物のダンスの練習するために頻繁に代々木公園を訪れていた。異変が起きたのは8月20日だった。体のだるさを感じ、突然、高熱が出て気を失った。気付いたのは救急車の中だったという。この日は暑く、最初は熱中症だと思ったらしいが、入院して治療を受けても40度の熱は下がらず、医師も病名が分からなかった。「何も伝えてくれなかったので、怖いし不安で死ぬかもと思いました」という。
入院6日目に母親が娘の足に無数の蚊に刺された跡があることが気になりインターネットで調べたところ、娘の症状によく似た病名を見つけ医師に伝えた。
「デング熱とかじゃないですかね?」
医師が感染症の専門医に問い合わせ、ようやくデング熱に繋がった。この間、多くの人が代々木公園を訪れたために感染者が増えていった。
そんなに稀有な伝染病なのか。国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は「普通の病院だと検査できないところが多く、どうしていいかわからないでしょうね。ある程度の知識を持っておくことが大事かなと思います」と悔やむ。
病名究明の遅れで東京都の対応も後手に回り、デング熱と分かってからも、不慣れなために対策は抜け穴だらけだった。都は女性感染者がダンスをしていた代々木公園の渋谷門を中心に半径75メートルでトスジシマカの駆除をする殺虫剤を散布した。しかし、女性は「ピンポイントでやるのはおかしい」と疑問を感じたという。ダンスの練習をしたのは渋谷門だけでなく、原宿門へ移動してからも続け、そこでも蚊に刺されていたからだ。
なぜ東京都は駆除範囲を一か所に限定してしまったのか。担当者によると、国の手引きに従って感染場所の特定を行ったが、女性の聞き取り調査を行ったのは埼玉の保健所で、都は聞き取り内容の一部しか把握していなかったらしい。都がヒトスジシマカの生態を十分認識していなかったことも対策が後手に回った一因という指摘も専門家から出ている。
都はヒトスジシマカの繁殖を食い止めるため公園内の池の水を抜く作業を行ったが、これでは不十分という。大きな池には蚊の幼虫を捕食する魚や昆虫などがいて、蚊はそういう場所を避けるように適応して、木の窪みなどわずかな水溜りに好んで産卵する。水を抜いて蚊のタマゴが乾燥しても、次に雨が降れば数日のうちにふ化するという。長崎大学熱帯医学研究所の砂原俊彦助教は「公園のような広大な場所でヒトスジシマカを駆除するのは容易ではないのです」と説明する。
「越冬卵」で来年再び流行の心配ないか?
国立感染症研究所ウイルス第一部第2室の高崎智彦室長はこう話す。「海外渡航者が渡航先で感染し、帰国後に発症するケースが年間200例あり、こういう事態は予想していましが、せいぜい自宅に帰って庭先か周辺の公園であるかなぐらいに想像していました。大きな公園で起こるとは予想していませんでした」
国谷裕子キャスター「心配なのは今の感染がいつまで続くのか、来年もまた起きるのかということですが...」
高崎室長「秋の気温にもよりますが、11月下旬には蚊の成虫は死滅します。その前に人の血を吸って産卵するわけですが、タマゴの中でウイルスが生きているのか。実験的には生きた例はありますが、自然界では極めて低いと思います。
今後は外から入ってくるのを止めるのと、入ってしまった後の自治体や医療機関などの連携をスピードアップすることが課題になります。埼玉の10代の女性は公園の2か所で蚊に刺されたといっていたが、都の職員は埼玉に出掛けてしっかり聞き取る必要がありました」
最後まで残った疑問は、海外渡航者によって持ち込まれているデングウイルスによる発症が最近は年間200例もあるのに、なぜ医療機関や自治体の対応が不十分のままだったのか。ワクチンも特効薬もないことから解熱剤と鎮痛剤で自然治癒に任せていたとしたらお粗末だ。観光客の誘致に力を入れ、6年後には東京五輪もあり海外からの渡航客が増えてくる。お粗末な体制のままでは済まされない。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2014年9月10日放送「デング熱 感染拡大を防げ」)