教育現場でICT(情報通信技術)の導入が急速に進んでいる。ICTとはInformation and communication Technologyの略だ。タブレット端末と電子黒板を用いた双方向の授業で生徒たちの学力を向上させようという狙いだが、先行する韓国では弊害も指摘されるようになっている。
キャスターの国谷裕子「欧米などではICT教育が盛んで、その割合は学校の6割にまでなっています。でも、日本での普及率はまだ8.1%と差が大きい現状となっています。そこで、政府は2020年までに1人1台のタブレット端末を普及させ、欧米のICT教育に追いつこうとしています」
一足早く導入の韓国「目立った効果ない」「問題解決能力低下」「読書量減少」
今年(2014年)5月に開かれたICT教育の展示会で注目を集めたデジタル教科書には、ユニークな仕掛けがいろいろあった。英語の教科書には発音の速度を変えて再生できる機能が附加され、これで自分の習得レベルに合わせて学習することが可能になるという。数学はタブレット端末を教科書にかざすと、立体図形が3Dで表現されるICT教育市場はいずれ4兆円の規模になると見込まれている。
佐賀県はいち早くICT教育に踏み切り、全員がタブレットを所有して授業を受けている。しかし、英語の授業の時、女子生徒の1人が「これ、わからない。テキストが出てこない」と声を上げると、その後に何人もの生徒からも同じような指摘が出た。原因はタブレットに英語のテキストがインストールされていなかったためだ。
韓国は日本よりも一足早く、4年前からICT教育を進めてきた。韓国では2015年までに1人1台のタブレット端末の導入を目指している。ソウルのボラメ小学校では全学年のほぼすべての教科でタブレット端末を使った授業を行っているが、生徒の学力に目立った成果は現れていないという。教育評論家のクォン・ジャンヒ氏は「タブレット端末に依存しすぎると、能動的に学ぶ姿勢が失われる」と指摘している。
現場の教師からも、「子どもの学力に目立った成果が表れていない」「資料を検索すると簡単に結果が出るため、問題解決能力が落ちる」「子どもの読書量が減る」などの批判は強い。こうしたことを受け、韓国政府は144校あったICT教育実践モデル校を見直しを始めた。韓国教育学術情報院のジョン・スンウォン部長は「これまで通りICT教育を推進していくべきかどうか悩ましい問題だ」と語る。
尾木直樹「教育の基本はFACE TO FACE。そのうえで使うのなら…」
教育評論家・尾木直樹氏はこう話す。「これからは個別教育で興味や関心をどう伸ばすかが重要になってきます。タブレットにはその可能性があります。しかし、OECDの定義では、発想力、論理力、批判的思考力、表現力、グローバルコミュニケーション能力の5つが21世紀型の学力とされています。そういう力をタブレットを使いながら伸ばそうというのが狙いですが、他の人が解決したものを借りると問題解決能力が落ちてしまいます」
国谷裕子キャスター「本来あるべきICT教育の中身はどのようなものであるべきでしょう」
尾木「僕が使うなら、自分の頭で考える時間を設定して、映像ではどうなっているかな?と参考にするとか。あくまで補強のツールでしかありません。授業の構想力がない先生が、目先の楽しさで生徒たちを惹きつけようというのは甘いですよ」
そして、こう提案する。「同じ答えを導き出した子供でも、本当に理解しているのか。表情が見えないのが今の教育現場で、教育の基本はFACE TO FACEです。表情を読み取って、生徒を理解する。その上でタブレットを使うのなら、子供が主人公のような学校生活や先生と子供の信頼関係が生まれると思います。そういう学校文化が豊かでないと、タブレットだけ導入するというのは安易すぎます。タブレットを使う前からすでに探究型の授業をしているかどうか。以前からそのような授業をしているところにタブレットが入ったら、これは鬼に金棒です」
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年9月9日放送「学びを変える?~デジタル授業革命~」)