東北の小さな集落・小森(リトル・フォレスト)を舞台に、畑仕事と野山の恵みで自給自足に近い暮らしをしているいち子の生活を描いた五十嵐大介の人気コミックの映画化だ。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の好演が印象深い橋本愛が主演、ナレーションも務める。
おいしそう…自生するグミやクルミでジャムや炊き込みご飯
ここ数十年の間に急速に進んだ農畜産物の大量生産・大量消費システムで、私たちはスーパーやコンビニでいつでも好きなものを好きなだけ手に入れられるようになったけれど、「生きる=食べる」という当たり前の感覚が希薄になってしまったように思う。
しかし、農業だけで生計を立てる人がほとんどの小森では、自分の食べるものは自分で作って生きるのが当たり前。さらに「料理は心を映す鏡」と語る母の影響を受けたいち子は、山に自生するグミやクルミも収穫し、作るときも手間を惜しまない。
自家製パン、グミジャム、トマトスパゲティにアケビのサブジ風、クルミの炊き込みご飯など、次々とテーブルに並べられる旬の料理に、思わず「おいしそう」とうらやんでしまうが、そこでの暮らしは常に天候に左右され、虫や動物と対峙しながら「生」を勝ち取っていかねばならない。厳しい場面も同じくらいのボリュームで構成されている。言うなれば、エンタメとドキュメンタリーの中間のような独特の空気感が漂う作品だ。