農作物の高温障害が広がっている。日本列島は過去30年で平均気温が0.8度上がった。日本の農業は適地適作で特産品を生み出してきた。これが保てなくなっている。由々しき事態だ。
広島・世羅町は標高520メートルの高原だ。平均気温25度がブドウ生産に最適の条件だ。ところが昨年(2013年)、気温が25度を大幅に超える日が続き、標準的な色づきのものはわずか13%と例年の4分の1で、500万円の損失を出した。
生産者は今年スプリンクラー1200個を設置して気温を下げるだけでなく、一部で幹の樹皮を切り取る環状剥皮を行った。これで果実への養分が確保できるが、木を枯らしてしまうリスクがあり、虫害にも弱くなる。しかし、他に選択肢はなかった。
新潟の「コシヒカリ」成長速すぎて米粒が白濁
新潟の「コシヒカリ」は4年前の記録的な高温で大きなダメージを受けた。27度の標準を大きく超えたために「白未熟粒」という白濁が増え、 価格が下落して70億円も失った。高温でモミの成長が速くなり、光合成が短くなってコメがでんぷん不足になる。これを補うには補肥が必要で、散布には人手がかかる。
県のプロジェクトチームが400か所を巡回し、生育異常を発見するとメールや防災無線で各戸に知らせ緊急に肥料をやる。これでまいっているのが大規模農家だ。農地の集約による効率化は米作近代化のモデルなのだが、急いで肥料をまく人手がない。
農業法人で110ヘクタールを持つ保坂一八さんは、県からの「今日中に」という緊急通報にかき集められたのは10人だった。1人あたり11ヘクタールにもなる。効率化のための規模拡大が裏目に出ている。
農業・食品産業技術総合研究機構の杉浦俊彦・上席研究員は「形、色、大きさなど、商品価値の問題はクリアしにくい」という。リンゴの日焼け、ミカンの浮き皮、サクランボの奇形、ぶどうの色落ち…。「しかし、味でいうと、色づきの悪いブドウは酸味が抜けて味はいいはず」という。ただし、コシヒカリのように味が落ちるものも少なくない。
オリジナル産地では高温に強い品種に切り替え
そこで、高温に耐える品種への切り替えの動きがある。温州みかんの愛媛・宇和島では、シチリア原産のブラッドオレンジへの転換が進む。宇和島での適温は16度だった。ところが90年代以降17度を超えて浮き皮などが起き、生産農家の減少もあって、生産量は最盛期の2割に落ち込んだ。
みかん農家の山内直子さんは温州みかんの畑を3分の1に縮小、ブラッドを7割にした。「温州だけでは子どもたちが続けられないから」という。2060年代には、温州みかんの適地は関東や北陸、東北南部にまで広がるとされる。
これを先取りして、山形県では4年前から温州みかんの試験栽培を始めている。夏の平均気温は12.9度で16度には遠い。味も「まだ酸っぱい」が、「30年経って、さあ、これからでは間に合わないですからね」
山形は日本一のサクランボの産地だが、日焼けや奇形のほか、温暖化で受粉の時期がずれ実そのものがつきにくくなっているという。「温暖化の影響が、こんなに早くくるとはね」。そのサクランボは北海道の富良野で試験栽培が始まっている。産地が北へ移動していく予感である。
杉浦氏は「適地の移動は、机上ではいえても実際は大変ですよ。植え替えには何年かのロスがあるし、勇気もいる。ただ、オリジナルの産地での収穫は減っていくだろう」と話す。
温暖化は急速だ。農家の負担だけでは乗り切れまい。行政がどうサポートしていくか。色が悪くても味がよければ、こんどは見栄えを優先する消費者の側の問題にもなる。見えないところで続く闘いを見えるようにする必要がありそうだ。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年8月28日放送「異常気象に適応せよ~進む農作物の温暖化対策~」)