バスの運転手が運転中に脳や心臓の発作を起こすなど、体調急変によるバス事故が急増している。国土交通省の統計では、運転手の健康状態による事故は2012年に58件発生していて、この10年で3倍に増えた。最近4年間では210件、死傷者は196人に上る。
「再検査」「精密検査」でもそのまま
こうした事故の後に、事業者が国交省に提出する報告書を「クローズアップ現代」が分析したところ、事故を起こした運転手に高血糖、高血圧などの健康リスクが事前に指摘されていたケースが多かった。健康診断で「異常あり」とされていたケースは143件あり、事故時の健康急変と関係がある異常が57件あった。しかし、こうしたリスクが放置されているのが現状という。
たとえば、運転手が健康診断で要再検査、精密検査となった場合、会社はこれを受けさせたうえで、医師の判断を仰ぐことが法律で義務づけられている。しかし、守られていないという。
北里大学医学部の川島正敏医師は「健康診断は行われているが、結果が有効に活用されていないんですね。早い段階で治療を行うことで事故を減らせる可能性があります」という。
「人手不足で休ませられない」「休むと収入が減る」
なぜ放置されるのか。取材したNHK社会部の板倉浩蔵記者は「『たかが高血圧』と言う会社も少なくなかったですね。健康リスクに対する危機意識が低く、業界内に事故の予兆と捉える意識がないんです」と報告する。
バス業界の高齢化と人手不足も背景にある。バス会社の社長はこう開き直る。「再検査をすすめるような状況にはないですよ。ほんと人手不足で、1人いなくなるとローテーションがガタガタ。ギリギリいっぱいなんですよね」
運転手も健康リスクより乗務手当など収入が減ることを気にして、再検査や治療に消極的だという。「(検査で)なんか引っかかって乗れなくなる、稼げなくなるのが怖いんで。(乗客に)申し訳ないというのもあるけど、やっぱり生活のために働かないと」(高血圧で肥満の運転手)
しかし、バスの暴走で被害を受けるのは乗客だ。体に異常があるのに乗務させたり運転したりしている会社や運転手には、何らかに規制や処罰があってもいいのではないか。
*NHKクローズアップ現代(2014年8月26日放送「突然バスが暴走~見過ごされる運転手のリスク~」)