刑事シモン(バンサン・ランドン)は職務中に衝突事故を起こし、3人の命を奪ってしまう。事故から6年が経ち、服役したが、罪の意識に苛まれる日々を送っていた。妻とも離婚してしまう。かつてコンビを組んでいたフランク(ジル・ルルーシュ)は何かと世話を焼くが、シモンに変化は見られない。
そんなある日、シモンの息子が殺人現場を目撃し、犯罪組織から命を狙われることになった。息子を守るため、シモンとフランクは再びコンビを組み犯罪組織に立ち向かっていく。
情感たっぷりのフィルムノアール
監督はデビュー作「すべて彼女のために」がハリウッドでリメイクされるなど、注目を集めているフレッド・カヴァイエだ。90分と比較的短い尺の中に、フィルムノワールと現代的なアクションをふんだんに盛り込んでいる。
これまでもタッグを組んできたギョーム・ルマンとカヴァイエの共同脚本は、最近のハリウッドのアクション映画には見られない緻密さだ。人間の行為の「動機」を突き詰め、そこに生まれる感情を描いていく術は、ヒッチコック映画のような重厚さがある。登場人物が歩いたり、走ったりするだけで緊迫感が生まれるのは、脚本の段階で登場人物を追いこんでいる証だ。
ストーリーはシンプルであり、結末にどんでん返しが用意されている訳でもない。お約束の銃撃シーンなどは想定内であるにも関わらず緊迫感にあふれている。台詞を削ぎ落とし、映像だけで心情を伝えようとする演出も鮮やかだ。監督は「すべて彼女のために」でランドン、「この愛のために撃て」でルルーシュを主演で起用しており、2人の役者と相性がいいことがわかる。
本作もハリウッドがすでにリメイク権を獲得した。カヴァイエ監督のハリウッドデビューも決定しているという。映画自体が非ハリウッドアクション映画であるし、自暴自棄に陥っていたフランクが息子を救うための命がけの追走劇は、どこかアメリカを皮肉っているようでおもしろい。
いずれにせよ、これからさらに評価されていくであろうカヴァイエ作品を劇場で見ておいて損はないはずだ。重厚な傑作フィルムノワールに唸っていただきたい。
丸輪太郎
おススメ度☆☆☆☆