リーマンショック後、政府は企業の債務の返済を猶予し倒産を防いできたが、ここに来て方針を転換、「成長の主役は地方だ」として企業の新陳代謝を促進し、経営基盤の強いところに資源を集約することで地方再生を行うと強調している。
キャスターの国谷裕子はこう解説する。「地方の金融機関では、成長の可能性がある企業には破綻懸念先であってもリスクを冒して資金を投入する動きが出ています。しかし、一方ではこれまで延命を行ってきた企業には転廃業を促す決断も実施しています」
倒産会社の再生にも融資
静岡・長泉町にある三島信用金庫は、地元の企業およそ1万社と取り引きをしている。これまで金融円滑化法によって借金の返済を猶予してきた企業は約2000社。この中から成長が見込める企業には融資、そうでない企業には廃業をすすめている。
三島信用金庫が活性化をめざしているのは観光分野だ。温泉旅館や飲食店などの復活に期待をしている。どの企業に融資するか、連日、会議が行われている。融資部・お客様支援課の手老壽夫融資課長は「今までは延命措置。今は決断する時期」と話す。
融資を行うか否かの判断基準は、企業が将来にわたって利益を生み出せるかどうか。融資を実行することを決めた温泉旅館を訪れた。手老氏たちが厳しく企業の経営状態、将来性、やる気をチェックする。手老氏は「経営者には経理もできる、計数もできる、かつ営業もできる。そういうスーパーマンのような力をもってやってほしい」と話す。
国谷「一方で、地元金融機関なら転廃業を薦められて倒産しましたが、わずか1か月で再生した地元企業もあります」
その会社は埼玉県秩父市で秩父ちぢみを作ってきた。需要が落ち込んでも新たな商品開発に取り組まなかったため売り上げは低迷を続け、金融機関の融資が止まり3年前に破産し、従業員18人が解雇された。復活の立役者となったのは秩父商工会議所の黒澤元国氏だった。
元従業員や取引先から350万円の出資を受け、破産した会社から機械を買い取り、運転資金を融資してくれる金融機関を探した。事業計画を作り、毎月400万円以上を売り上げることを条件に、金融機関から融資を引き出す。さらに、黒澤氏は海外への輸出を見据えてデザイン性の高いカバーの開発に力を入れ、商品のラインナップも増やした。この結果、新会社の年間売り上げは5000万円を上回るようになった。
お客さんがいなくなったら自分たちも危ない
地域金融機関が地元企業回帰に動き出している背景を神戸大学経済経営研究所・家森信善教授はこう説明する。「地域の金融機関の危機感が強まっているということがあります。ここ3年間で中小企業は8~9%減少していて、金融機関にはお客さんがいなくなってしまうと自分たちの経営も危うくなる、何とか再生させたいという思惑があります。
高度経済成長のころに日本の中小企業が生まれましたが、当時の創業者たちは年齢的に引退の時期を迎えています。後継者にバトンタッチができなければ会社が存続できない。それだと金融機関としては困るので何とか後継者つくりをサポートしたいと思っています」
国谷は「そのためにこれからの企業に求められるものはなんでしょうか」
家森教授「地域のいろいろなノウハウを持った人を集めることが非常に重要になります。従来とは違い、さまざまな販路を拡大して、新しい使い方を提案することが非常に大事になってきています。日本の中小企業は高くても売れるモノを作っていく、何かしらのプラスアルファが必要となります。
金融機関の体質に強化は人材の面がまだまだ不十分で、外部から経験豊かな人を雇うことを急がなければなりません。最も重要なのは職員に対して企業再生が生きがいということを意識づけすることです」
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年7月28日放送「地方経済はよみがえるか~企業再生の模索~」)