日本航空再建にも寄与した京セラ名誉会長の稲盛和夫氏の経営哲学に、中国企業家たちが関心を寄せている。尖閣諸島問題などで日中関係がぎくしゃくしている中で、なぜ稲盛哲学がもてはやされるのか。
キャスターの国谷裕子はこう伝える。「稲盛氏人気の背景には、中国経済の変調があります。かつて、中国の指導者・鄧小平氏は白い猫であれ、黒い猫であれ、ねずみを取るのがよい猫だとして、経済的発展につながるなら手段は選ばないという考え方を打ち出しました。しかし、成功の方程式だった儲けるには手段を選ばずというというやり方は限界を迎え、儒学にも通じる稲盛流の経営哲学に経営のヒントを見つけ出そうと、懸命の模索を始めている中国の企業家が増えています」
職場環境改善して「社員食堂食べ放題」「妊婦メニュー用意」
ある部品メーカーの経営者は稲盛経営の手法を参考に従業員の待遇改善を行った。いかにして金を稼ぐかという西洋式の経営哲学に基づいて売り上げを倍増させてきたが、リーマンショック後、売り上げが5分の1に減少してしまった。成長の限界に直面した時に手にしたのが稲盛氏の著書だった。
経営者は「他を利するところにビジネスの原点がある」という言葉に触れ、従業員の職場環境の改善に乗り出す。社員食堂を食べ放題にしたり、妊婦のための特別メニューまで用意した。従業員にも変化が現れ始めた。「仕事が楽しくなった。まるで家族と仕事をしているみたいだ」と話す。
成長神話、社会主義神話ではごまかせなくなった「中国社会のゆがみ」
稲盛哲学が注目されている理由を、日本総合研究所の寺島実郎理事長はこう見る。「いまの中国は日本の1980年前後だと思います。中国は成長によって経済のパイを拡大し、分配も進んできましたが、ここへきてバブリーな中国経済を引き締めざるを得ないところに来ています。あえて経済成長率を落とている。その結果、これまで成長スピードで隠してきたひずみやゆがみといった問題が表面化しています。経営者にとって、マネジメントして束ねる力がどんどん混乱し始めているんです。
社会主義をめざしていた頃は、あらゆる問題や矛盾は階級矛盾をこえた新しい国を作るために頑張らないといけないというメッセージで束ねていました。このメッセージが緩み、改革開放のもとに資本主義で中国全体を引っ張ってきた。しかし、中国経済全体に変調が起こり、経営者は今までの方法では神通力がきかなくなった。そこに稲盛氏が発信しているような経営スタンスが心に響くのでしょう。稲盛氏の経営哲学はイノベーション・リーダーとしての実績、成果があって、彼が語る経営論が心をうつものになっているのだと思います」
そうしたことは日本でもあるのではないか。いまだに成果主義を唱えて従業員を自殺するまでこき使う経営者、ブラック企業が幅を利かせているではないか。
ナオジン
*NHKクローズアップ現代(2014年7月21日放送「いま中国企業で何が?~日本式経営学ブームの陰で~」)