「個人情報過保護社会」孤立老人の情報共有できない自治体、警察、民生委員、病院
ベネッセホールディングスから顧客情報が流失した問題は、テレビや新聞は騒いでいるが、どうもわかりにくい。週刊文春はこうした情報が悪用され、詐欺集団が情報をもとに、子供をいい学校へ入れたい親に裏口入学を持ちかける詐欺などに利用される可能性があると心配している。ありえる話だとは思うが、いまひとつなるほどとはいかない。
週刊新潮がその「素朴な疑問」に答えてくれているので紹介しよう。週刊新潮らしく、この問題が起きてからも、テレビで「(個人情報が)流失して怖いです」と話している母親の住所や氏名がテロップで流れたり、ベネッセで出している妊婦向け雑誌に子どもとママのツーショットが山ほど掲載され個人情報が日々流出しているのは奇妙ではないかと書いている。
フェイスブックやブログに子どもと一緒に写っている写真を何の考えもなしに載せているのに、新聞やテレビが騒ぐと、自らが個人情報を流出させていることなど忘れてしまうのだろうか。
個人情報保護法は2005年に全面施行されたが、そのために個人情報は絶対保護されなければいけないという言葉だけが一人歩きし、多くのおかしな現象を引き起こしていることは何度となく報じられている。
例えば、PTA名簿がひとりの親の反対のために作れない。幼稚園では運動会での個別撮影を控えるように指示される。週刊新潮には、日本海に流れてくるゴミの漂着写真を新潟県のある都市に頼んだら、漂着ゴミの中に中国語やハングルで書かれた文字が個人情報にあたるとまずいと断られた、柔道のトーナメント表に氏名を載せようとしたら保護者に断られ、A君、C君としか書けなかったというバカバカしい話が載っている。
笑ってばかりはいられない。いま一番の問題は、老人の孤独死を防ぐために不安のある年寄りたちの情報を自治体や警察、民生委員が共有しようとしてもできないことだ。そのため、和光市などは高齢者たちから一筆をとって情報を自治体、警察、民生委員と病院で共有して介護モデル地区になっているが、これは人口8万人ぐらいの規模の街で、歴代トップが強いリーダーシップを持っているからできた希有な例である。
その他にも、以前は学生がOB訪問をしたいと就職担当者に頼めば、卒業生を紹介してもらえたのに、いまでは個人情報保護を盾に教えてもらえないため、志望する会社の前で話をしてくれる人間を探さなくてはいけない。
また、週刊新潮にはこんなケースもあるという。隣家の住人がナイフをちらつかせていたり奇声を発していたりすると、子を持つ親としては心配なものだが、民生委員や町内会、自治会に頼んでも、プライバシーを理由に改善策を講じてくれなくなった。
危険を感じる人間がいた場合、一般人がその人物に対する診察や必要な保護を申請できるが、申請者の氏名や住所は相手に知らせるのが原則なので、とても怖くてできない。「周囲が危険を感じるような人物については個人情報が厳重に保護され、申請する側の個人情報は相手に筒抜けになるのだからおかしな話です」(精神障害者の移送サービスを手がける「トキワ精神保険事務所」の押川剛所長)
ベネッセの情報流出事件は徹底解明されなくてはいけない。だが、誤解を招くいい方になるかもしれないが、これぐらいの情報はどこからでも取れる情報である。それが証拠に、何か問題発言をした人間の個人情報があっという間にネットに晒され、その人間の家の前に人が集まるのは日常茶飯事である。個人情報保護法を作った人間がこうした事態を考えていなかったからだが、早く改正して情報を共有することができるケースを具体的に明示すべきだ。
PTAや学校OBの名簿は学校関係者には開示する。病院は近親者の問い合わせには答える。高齢者の病歴や身体の状態については、自治体他で共有できるなどしなければ、このバカバカしい個人情報『過保護』は日本社会全体をおかしくしかねない。
その上で、絶対守らねばならない個人情報を流出させた国や企業、人間には厳しい処分をもって臨むのが真っ当な社会だと思うのだが。