東南アジアを舞台に日本、韓国、台湾が外国人労働力の獲得をめぐって三つ巴の争奪戦を繰り広げている。日本は少子高齢化が進むなか、労働力不足を補い持続可能な経済成を実現する方策として、外国人労働者の活用・拡大を目指しているが、より条件の良い韓国や台湾に人気が集まっているという。
外国人労働者側から見ると、日本はイニシアルコスト(初期費用)が高い割に滞在期間が短く、十分な収入が確保できないなどの理由がある。根底には「単純作業を行う海外からの労働者は受け入れない」というタテマエ論を日本政府が堅持しているため、現実と乖離した中途半端な制度として尾を引いている問題がある。
ベトナムの仲介業者「日本に行かなくても台湾などでいくらでも働ける」
日本政府は「外国人技能実習制度」の改善策打ち出し、現行3年の労働滞在期間を来年(2015年)から5年に延長し、受け入れ枠の拡大を図った。外国人技能実習制度は発展途上国への技術移転を進め、国際貢献の一環として21年前に導入されたものだが、すでにこの時点で、単純労働はダメと言いながら単純労働力不足を補おうというご都合主義が見え隠れしていた。それを今回の見直しだけで外国人労働者の争奪戦に勝とうというはあまりにも甘すぎる。今月8日(2014年7月)にはアメリカ政府高官から、「この制度が強制労働に悪用されるケースが後を絶たない」と指摘され、日本政府は改善を求められている。
そこでまず、日本などから労働力として期待される現地の若者たちの声を聞いてみよう。ベトナムの首都ハノイ。日本の建設会社など9社の人事担当者が技能実習生の試験を行うため現地の仲介業者を訪れた。建設現場の足場の組み立てなど日本企業が求める実技が行われ、建設会社の経営者は「やる気がビシビシ伝わってくる。みんな連れて帰りたいくらい」と話すが、試験を受けた若者たちの多くは日本を選ばず、「台湾に出稼ぎに行き家族に仕送りしたい」という。
仲介業者も「ベトナムの労働者は日本に行かなくても台湾などでいくらでも働ける。受け入れ制度が今のままだと日本企業は得にならないと思う」と指摘した。台湾は今年、ベトナムから前年比1万6000人多い労働者を獲得したという。
次なる労働力獲得の場と捉えられているミヤンマーはどうか。おととし、日本への技能実習生を供給する学校をヤンゴン市内に立ち上げた渋谷修二さんは苦戦を強いられている。渋谷は「入学した学生の4割は途中でやめ、多くが日本以外の国に出稼ぎ先を振り替えています。その対象先はほとんどが韓国です」と嘆く。この5月、韓国への出稼ぎ資格を得るための試験が大学を貸し切って行われた。実施したのは韓国政府で、過去最多の1万4000人が受験したという。受験生の一人は「日本に行きたいけど、お金がかかるので韓国を選びました」と話す。
日本で働くイニシアルコスト100~300万円。韓国はその5分の1
韓国や台湾の制度は日本の制度とどこが違うのか。少子高齢化に直面し、東南アジアからの人材確保に活路を見出そうとしている点は同じである。根本的に違うのは、日本は技能実習生、つまり見習い労働者として受け入れる形をとり、仲介業者が間に入っているのに対し、韓国、台湾とも『労働者』として真正面から受け入れ政府が管理している点だ。
たとえば、韓国は政府が一括して人材を確保するので、高額の仲介手数料を払う必要がなく最低限の手数料で済む。労働滞在期間も日本が3年(来年から5年)なのに対し、韓国は最長9年8か月、台湾は12年と長く、それだけ労働者の収入が増えることになる。
首都大学東京の丹野清人教授はこう解説する。「台湾も韓国も労働者として受け入れるから、韓国などは2国間協定を結び国が前面に出てやっています。日本は労働者になる前の技能実習生として受け入れている点で弱さがありますね。
日本は相手国の仲介業者が人材を集め、日本側の仲介業者に渡す。そうすると透明さに欠けるうえ、イニシアルコストがかかるので、その穴を労働者に払ってもらう必要があり、費用がかかります。日本の魅力は下がらざるをないですね」
国谷裕子キャスター「日本に行く場合と韓国に行く場合とで、初期費用はどのくらい違うのですか」
丹野教授「日本の場合は100~300万円という金額を聞くことがあります。3年でそれを払わなければならないので、残業をやる、土日も削るように働かなければならない。それに比べ、韓国のイニシアルコストは3分の1~5分の1。長く働けるので魅力が全く違います。
原点に戻って、外国人労働者を受けれるんだということを真剣に考えることができるかどうか。そこを見詰め直す必要があります」
外国人労働者にとってイニシアルコストがかかる仲介業者の問題は、国内でいえば派遣会社と似ている。公共職業安定所(ハローワーク)の機能を拡充すれば済ものを、間に仲介業者である派遣会社が入ったばっかりに、その分、派遣社員の収入が減る。ことほど左様に、政府はこれまで上っ面の仕組みづくりにばかり注力してきた。さて、原点に戻って労働者の視点で考えることができるのかどうか。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2014年7月9日放送「アジア労働者争奪戦」)