タイムスリップもの、若き日の両親、出生の秘密――。押し寄せてくる「どっかで聞いたことあるキーワード」の嵐に、見る前の期待は高くはなかった。冴えない三枚目の主人公に大泉洋、その対になるダメ男に劇団ひとりという配役も、いかんせん手堅たすぎる。どちらも、ぱっとしなくてひねくれ者で、でも大事なところで見せる漢気がギャップになるタイプのキャラクターがはまる。はまりすぎて、悪くはないのだけれど、はじめからなんとなくオチがわかる。
とはいえ、ひさしぶりに柴咲コウの造形美を拝みたい気持ちもあるし、「まぁ見ておこうか」くらいの気持ちで劇場に足を運んだわけです。
鼻につくベッタベタの邂逅…それでも泣けるエンディング
たしかに、ストーリーは予想通りベッタベタでした。大泉洋演じる主人公はぱっとしないマジックバーの店員だ。40歳近いおっさんなのに、まともな仕事もない。彼女もいない。毎日みじめで、「なんのために生きているのかわからない」と原っぱで大泣きする。すると不思議、どこかから轟音が聞こえてきて、タイムスリップした時代は自分が生まれる半年前の日本だった。雇われマジシャンとして舞台に立つチャンスをもらい、周囲と関わるうちに、自分が変わっていく。そこで出会った1組の男女の正体は…と、お約束の展開が続いていく。
でも、でも、なんです。どれだけオチが読めても、「泣ける話」ってありますよね。駄目だ駄目だと思っていた親父の愛おしい部分、勝手に悪者にしていた母親の真実。そして主人公は、ぱっとしない人生を不幸な出生のせいだと理由づけて、人生を諦めていた自分と向き合う。がむしゃらに、プライドなんか捨てなきゃいけない。よくあるサクセスストーリーだけれど、だからこそじんとくる。
「私は子供にとってどんな母親でしたか」
白眉は主人公の母親の若き日を演じた柴咲コウだった。子どもを置いて先立たねばならないと知り、そのうえで「私は子供にとってどんな母親でしたか」と問いかけるシーンときたら…。正直、迫力のある美人過ぎて、可憐、はかなげな役ははまらないと思い込んでいたのだけれど、いやぁ、良いです。柔らかで、透き通るようなのだけれど、1本芯が通っている。本当に強いのはこういうしなやかな人よねと思わせる、見事な大和撫子っぷり。死への恐怖から、彼女が感情を露わにする場面が刺さる、そして、主人公が出した答えも良かった。何を言っても正解にならない状況で、「そうきたか!」と思ったときには、涙がつうっと流れ出ていた。ぜひ、劇場でご確認ください。
しかし、「この世に生まれてきた奇跡に感謝」系のメッセージって、言葉に出すと薄っぺらくなるのはなんでかな。主題歌の歌詞は個人的にはちょっと直接的過ぎるかなと思います。とはいえ、見終ったあとは、安心して爽やかな気持ちになれます。最初にあげた3つのキーワードを聞いただけで「またかよ」と思った方には勧めません。確信犯的に、涙でのストレス発散を求めている方はぜひ。
(ばんぶぅ)
おススメ度☆☆☆