山西省の村で共同保有していた炭鉱の利益を企業家と村ぐるみの汚職により吸い取られて怒りを抱えた炭坑作業員(チアン・ウー)。重慶に住む妻に出稼ぎと嘘をつき各地を転々とする男(ワン・バオチャン)。不倫を続け、年だけを重ねてしまったサウナで働く湖北省の女(チャン・タオ)。職を転々としナイトクラブのホステスに恋をするが居場所が定まらない青年(ルオ・ランシャン)。彼らの鬱屈した感情が引き金となる「暴力」を『長江哀歌』『四川のうた』などの監督のジャ・ジャンク―が描く。第66回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した。
悲劇と喜劇の狭間でさいなまれる人間たち
英題の「A Touch Of Sin」は「侠女」の英題「A Touch Of Zen」のもじりで、中国の格差社会がもたらす陰惨な死に、ジャ監督は中国の伝統である武侠を投影させていく。「四川のうた」で描いたような素人と俳優を織り交ぜるという内面的な手法ではなく、「アクション」という表面的な手法への挑戦は、過去作品を見ているファンにとっては評価が分かれるだろう。
日常の中で人民が罪に触れる瞬間を時にシリアスに、時にコミカルに描き、悲劇と喜劇の狭間に人間が存在することを訴えかけている。社会的弱者がさまざまな意味での「暴力」を行使するという共通点はあっても、登場人物たちのつながりはほとんど描かれず、短編映画が連続しているオムニバス形式に近い。この形式がそれぞれの土地にそれぞれの暴力が存在することを強く知らせる。4つのエピソードはすべて実際に起こった事件を題材にしているのだ。