衰弱した子どもが最後に発したのは「パパ」というか細い声だった。父親はそれを無視して出ていった。やがて子はひとりで死んでいった。ドストエフスキーでも、レミゼラブルでもなくて、神奈川・厚木のアパートで実際に起こった鬼畜の所業だ。
「がりがりになり死んでしまうと思った。立ち上がることもできず、おにぎりの袋も開けられなかった」
厚木市のアパートで白骨化した遺体でみつかった斎藤理玖ちゃん(死亡時5歳)を放置し逮捕された父親の幸裕(36)の供述が少し明らかになった。見つかった先月30日(2014年5月)は、生きていれば13歳の誕生日だった。
斎藤は05年秋に妻が出ていったあと、ひとりで理玖ちゃんを育てていたが、06年から07年にかけては交際女性の家にいて、アパートには週に1、2回しか戻らなかった。最後のころの様子をこう話しているという。
「亡くなる2か月くらい前、理玖ががりがりになり死んでしまうと思った。最後に見たときは、立ち上がることもできず、おにぎりの袋も開けられなかった。病院に連れて行くとバレてしまうので、怖くて行けなかった」「最後にパパと細い声で呼ばれたが、そのまま立ち去った」
まさに鬼のような父親だ。子どもの目に父の姿はどんな風に映ったのだろう。部屋に一人取り残される意味を感じ取っていただろうか。やがては死ぬと思っていただろうか。何か月も続く空腹をどうしていたのだろうか。
文
ヤンヤン| 似顔絵 池田マコト