AKB48のメンバーをノコギリで切り付け殺人未遂容疑で逮捕された無職、梅田悟容疑者(24)は、「人の多く集まるところで人を殺そうと思った。殺すのは誰でもよかった」と供述していることが分かった。警察は無差別殺人を狙った計画的犯行と見ており、「モーニングバード!」は梅田の素顔を追ったが、見えてきたのは社会から孤立し、捨て鉢になった若者の姿だった。
事件1週間前…「ニヤニヤして自転車に乗ってて不気味だった」(知人)
梅田の母親によると、事件前日の24日(2014年5月)朝、「散歩に行く」といったまま行方が分からなくなり、母親が何度も携帯電話で呼び出しても応答がなかったという。家を出るときすでに犯行を決意していたのだろう。
犯行に及ぶ25日夕までの間に梅田が何をしていたか不明だが、握手会の会場に現れた梅田は握手の順番が来るのを待ち、「突然、入山杏奈と川栄李奈の前でジャンパーの内側から凶器を取り出し、2人に切り付けた」(戸賀崎智信AKBカスタマーセンター長)という。
梅田は中学を卒業して地元の商業学校に進学したが、退学して通信制の高校に移った。昨年(2013年)12月まで交通整理のアルバイトをしていたが、仕事ぶりは真面目だった。母親は「人とコミュニケーションを取るのが苦手で、無口でおとなしい性格だった」と話し、知人も「おとなしい。全然暴力的ではなかってけど、キレたら何をするかわからないみたいな、『ためてる』雰囲気はあった。変ったのは中学を卒業してからじゃないかな」という。
しかし、事件の1週間ほど前に自転車で出歩く姿を目撃した知人は、梅田の変貌ぶりに驚いている。「意味なくニヤニヤしていて、とても不気味に思い、声をかけられなかった」「ただ、音楽に興味はなさそうだし、アイドル好きってわけでもなさそうだった。どうしても梅田とAKBのようなアイドルとが結びつかない。不思議だと思う」
非正規雇用で不安定な気持ちの人を大量生産
これだけでは無差別殺人に走った動機はわからないが、通信制の高校に移ったころに何かがきっかけで大きな心境の変化があったのだろう。ジャーナリストの岩上安身は次のように見ている。「『殺すのは誰でもよかった』という言葉は、24歳の男性のオリジナルの言葉でないと思います。これまで数々の無差別殺傷事件があるが、犯行に及んだ人たちが必ず言っていた言葉です。
この一報を聞いてふと気づいたのですが、1970年代末からこういうのが出始め、景気の良くなった80年代から90年代後半までパッタリ止むんです。そして、金融恐慌の97年以降ドッと増え、08年のリーマンショックで激増する。経済状況とパラレルな関係にあって、経済・社会全体が冷え込むと、末端で働いている人、報われない人が影響を受けやすいということですね。
おそらく、無差別に誰でもいいから殺したいという人は孤立していた人たち、人との関わりが十分持てなかった人たちではないですか。考えなければいけないのは、雇用環境が不安定ということが社会を非常に流動化させてしまうこと。昨年4月、政府の諮問機関である規制改革会議の雇用ワーキンググループで、委員の東大の先生が『これからの日本社会は9割を非正規にして1割だけ正社員にし、流動化したほうがいい』と言っていましたが、これでは不安定な気持ちを持った人たちを大量生産する社会になってしまう。
単に企業にとって使い勝手のいい人材だけでいいというドライな考えは、一人ひとりに不安や孤立をもたらし、捨て鉢な行動をとらせる。上の人も考えなければいけないと思います」
この指摘には共感する。派遣社員を製造業に導入した結果、若者の路上生活者が増え、餓死者まで出した記憶は生々しい。経済成長イコール雇用の流動化とばかり、いまだに机の上で人材の効率化ばかりを考える手合いが上にいては、この種の事件は終わらないだろう。