「美味しんぼ」鼻血論争!放射線不安の声封じるな…福島原発の真相まだ解明始まったばかり

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原作者・雁屋哲の政府・行政に対する根強い不信「汚染隠ししてるんじゃないか」

   きのうも触れたが、雁屋哲氏が連載している『ビックコミックスピリッツ』(小学館)の「美味しんぼ」問題が大きな波紋を呼んでいる。<連載開始から三十一年。単行本は現在百十巻まで発行され、累計部数は一億三千万部超。日本にグルメマンガブームを誕生させ>(週刊文春)た美味しんぼだが、昨年(2013年)1月から「福島の真実」の不定期連載を始めた。

   雁屋氏自身、2011年から13年にかけて自ら精力的に福島県を取材して、放射能汚染に立ち向かうボランティアを称えたり、福島の農産物でも安全で美味しいものがあることを伝えたりする内容で、それまでは批判の的になるような描写は見当たらなかった。

<そうした回に登場する、福島県内の農家や漁業関係者、飲食店や大学関係者らに話を聞くと、大多数は「非常に熱心で、丁寧な取材だった」と好意的で、七十二歳の雁屋氏が、浜通りから中通り、会津地方から福島第一原発内部に至るまで自らの足で歩き、取材をひとつずつ積み重ねていった様子がよくわかった>(週刊文春)

   問題が生じたのは今年4月末に発売になった第22回、第23回の描写だった。議論を呼んだ点は2つある。1つは、主人公らが福島取材の後で鼻血を出したり、疲労感を訴える。それについて、井戸川克隆前双葉町長らが実名で登場し、「被曝したから」「福島はもう住めない」などと言うシーンだ。

   もう1つは、大阪で受け入れたガレキを処理する焼却所付近の住民1000人に聞いたところ、約800人に健康被害があったと説明されるシーンだ。こうした描写が風評被害を助長すると各方面から猛批判されたのだ。双葉町は原因不明の鼻血などの症状を町役場に訴える町民が大勢いるという事実はない、厳重に抗議すると発表した。

   今回の問題では安倍政権の政治家からの発言も目立った。安倍晋三首相は「根拠のない風評を払拭していく」、石原伸晃環境大臣も「(鼻血の)描写は何を意図しているのか全く理解できない」、下村博文文科大臣も「福島県民にとってひどい迷惑だ」などと語っている。原発再稼働を推進する安倍政権幹部がここぞとばかり批判しているのだ。

   2点目に対しては、ガレキ受け入れに反対する会が行ったアンケート調査で、投稿された1000件近くのうちに健康被害を訴える声が約800人分あったということだから、「正確さに欠ける表現だった」と小学館広報室が認めている。

   だが、何の根拠からなのか、鼻血が出た人間など福島にはいないと否定したり、それと放射能の因果関係はないと断言する人間を取り上げる週刊誌や新聞があるのには首を傾げざるを得ない。いま大事なのは、神奈川新聞が書いているように、「政治、行政がすべきは不安の声を封じるのではなく、誠実に不安と向き合い、放射能の問題に対峙することだ」

   原発事故当時の東京電力や政府の対応のまずさで多くの住民を大量の放射能汚染させたり、その後も文科省を中心に線量隠しを行ったりすることが、住民をはじめとする多くの国民に不信感を募らせ、かえって風評被害を大きくさせてしまっていることに、政治家たちはお詫びし猛省するべきである。

   美味しんぼの「福島の真実」編に登場する、福島県飯舘村から北海道に移住して畜産業を営む菅野義樹氏は週刊文春でこう語っている。<「福島には複雑な問題が多々あるのに、今回、鼻血の描写に議論が矮小化されるとしたら残念です。メディアと政府は単純な批判をするだけでなく、何が問題なのかを深掘りして問題提起や細かなフォローアップに繋げるべきです」>

   まだ福島第一原発事故の真相の解明は始まったばかりである。そのことを日本人みなが忘れてはいけない。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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