増え続ける「無戸籍の子供たち」大人になっても免許証取れない、保険証ない、アパート借りられない…

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「32年間、戸籍にないまま暮らしてきました。1日も早く普通の生活がしたい」

   関東地方に住む32歳になるヒロミさんは訴える。戸籍がないので住民票もない、健康保険証ももらえない。日本人として生まれ、何の罪もないのに法的にはその存在が認められない無戸籍者が増加しているという。

   原因は母親が前夫から受けたDV(家庭内暴力)だ。命からがら逃げだした後も加害を恐れ、新たなパートナーとの間に生まれた子どもの出生届が出せず、子どもが無戸籍になるケースが増えているのだ。「病気になったらどうしよう」「自分を証明するものがなく学校にいけない」…。助けを求める悲痛な叫びを「クローズアップ現代」が追った。そこには明治時代に作られた古い法律のまま、時代の変化に対応できない実態があった。

前夫のDV恐れ出生届出せない母親…毎年500人以上の子どもが無戸籍に

   自分の存在を証明できなければ生きていけない社会で、7年前に1度、無戸籍の人たちに光が当あてられたことがある。この時に問題にされたのは、離婚後300日以内に生まれた子どもは、前夫の戸籍に入るのを余儀なくされているために無戸籍になるケースだった。法務省によると、こうした理由で毎年500人以上の子どもが無戸籍になっている。しかし、このときは根本的な解決や救済にはいたらなかった。

   NHKが県庁所在地など主要自治体にアンケート調査を行い118か所から回答を得たところ、92%の自治体で出生届が受け付けられず無戸籍になっている人がいることが分かった。前出のヒロミ(仮名)は、母親が夫のDVから逃げている間に支えてくれた男性との間に生まれた。その3年後に母親はようやく夫との離婚が成立したが、支えてくれた男性とも別れた。女手一つでヒロミを育て、ヒロミの戸籍を作ってほしいと何度も行政に掛け合った。

   法律の壁は厚かった。ヒロミが生まれた時は前夫との結婚が続いていたため、前夫の戸籍に入るか、裁判で決着するしかないと言われ母親は諦めた。ヒロミも成長するとともに、いくつもの夢を諦めざるを得なかった。その一つが和食の料理人になる夢だった。16歳の時から5年間、飲食店の厨房でアルバイトをした。調理の腕を見込まれ、調理師の国家試験を受けるように勧められたが、戸籍がないために断念した。

   今の仕事は6年前から始めたホテルのアルバイト。給料は16万円ほどで銀行振り込みだが、銀行口座が作れないため親戚の口座に振り込んでもらっている。職場で呼ばれる名前は親戚の名前だ。戸籍がないと車の免許も取れない。移動はもっぱら自転車である。アパートの契約ができないために友人の部屋に同居させてもらっている。健康保険証もない。高額な治療費がかかるために歯科医院には1度も行ったことがない。「倒れたらどうなるんだろう。事故に遭ったらどうしよう。それが一番怖い」と悩む日々を送る。

   追い打ちをかけるように、悩みがまた一つ増えた。まじめな働きが買われ勤め先から正社員になるよう勧められたが、戸籍がないことがわかると解雇されてしまう心配があり断ったという。次に勧められたら辞めるしかないと思う。

「もうこのままでは生きていけない」

   限界を感じていたヒロミに今度は大きな転機が訪れた。昨年秋(2013年)、無戸籍者を支援する団体を知り相談に訪れた。支援団体の代表が今年3月、ヒロミのもとを訪れ朗報を伝えた。支援団体の弁護士が職権で調査したところ、母親の前夫はすでに2年前に病死していたという予想しなかった事実が分かったのだ。ヒロミにとって母親の前夫とは親子のつながりはない。もう恐れる必要はなくなり裁判を起こすことに決めた。ヒロミは「やっと普通の生活、やっと皆と同じような生活が送れる」と涙を流した。

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