いま日本全国で野生動物の数が急増、生息域も拡大して、農作物や人的被害が深刻化している。中山間地の過疎化が野生動物と人との境界を変えてしまった。農産物被害は4年連続で200億円を超え、国は鳥獣保護法を改正して保護政策を転換させたが、境界線再構築の道筋はまだ見えない。
街近郊で暮らすようになったサル!山の中の木の実より農作物の方が美味しいし栄養たっぷり
ニホンザルの生息域は2003年には1978年の1.5倍、都市部では4倍に拡大している。活動域は農村にまで及ぶ。山の中の木の実より、栄養価が高く数が多い農作物の方がエサの摂取効率がいいからだ。
鹿児島・さつま町で収穫期にあるダイコン、カボチャなどが食い荒らされる映像があった。サルは数十頭、人手がなく手の打ちようがない。栄養のいいエサは個体数も増加させる。
東洋大の室山泰之教授らが行った出産数の調査では、屋久島では3年に1回、10年で3頭だが、畑を荒らされている三重・大山田では10年で7頭だった。「増えると、また新しい被害地が広がる。食べさせないようにしないと連鎖は断ち切れません」と室山泰之教授はいう。
鹿児島・南さつま市坊津町では、4年間で主に女性のお年寄り60人が噛みつき猿の被害を受けた。片足のないオスのはなれザルで、のらネコに住民が与えるエサがねらいだった。ついに昨年(2013年)2月、町は写真入りのポスターまでつくって懸賞金20万円をかけた。サルは半年後に山中で射殺した。
サルによる危害は各地にあり、静岡・三島市周辺では10年、118人もの被害を出した。長野・上田市では今年すでに27人。北九州、下関、日向など、どこも生息域の変化の結果だ。森林総合研究所の大井徹氏は「当然の流れだ」という。かつては両者の間に緩衝帯があった。薪や炭をとるために10年周期で伐採・植林する樹林帯だ。ところが、需要がなくなり、過疎化で人も減り、木が繁ってサルにはいい環境ができた。そして、その先に農作物があった、繁殖力も高まったということなのだと解説する。