高血圧マフィアにむさぼられる「血圧高めの健康人」検診基準値厳しくして治療・クスリ漬け

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   日本人間ドック学会と健康保険組合連合会が4月初旬に発表した「新たな検診の基本検査の基準範囲」が大きな話題になっている。そこに記されていた健康の基準値が現行の値とは大きく異なっていたためである。例えば高血圧の場合、従来の正常の上限値である129よりも大幅に緩い147という新基準値が示されたのだ。この問題はいち早く『週刊ポスト』が取り上げたが、売れ行きがよかったらしく、各誌相次いでこの問題を載せている。週刊誌の読者層が健康に気を遣う団塊世代が多いことが、これでもわかるが、今週の『週刊現代』は渦中の人間ドック学会理事長・奈良昌治氏(83)の直撃に成功している。

   奈良氏は「高血圧なんて、本当は気にしなくていい」んだそうだ。<「今回発表したのは500万人以上という膨大なデータに基づく数値ですから、精度には自信があります。しかし、すぐに基準値を緩めるというふうに誤解されてしまったことについては、説明足であり、われわれの発表の仕方がよくなかった。反省しています」>という。

   奈良氏は、発表してから問い合わせが殺到し、高血圧学会や動脈硬化学会をはじめ、各専門学会からさまざまな「ご意見」をいただいたという。そこで、<「『今すぐ基準値を変えるべきだ』と言うつもりはありません。これから5~10年かけて、追跡調査を積み重ねていく予定です」>と釈明している。基準値を緩められては患者を増産できない医療界、製薬会社、学会側からの相当な反発があったことが窺える。

   <「ここ数十年で、高血圧や高コレステロール、高血糖などの診断基準がどんどん厳しくなっているのは事実です。多少大げさに脅かしたほうが効果がありますし、日本など先進国では、コンビニやスーパーが普及して食べ物が簡単に手に入るようになり、肥満の人が増えている現状があります。ですから、現在の学会の基準が必ずしも厳し過ぎるとは思っていません。ただし、例えば血圧が130を超えたらすぐに『おクスリを飲みましょう』と言う医者は、いい医者とは思えませんね」>と、ジャブを放つのを忘れてはいない。血圧が高いからといってすぐにクスリを飲ませる風潮に憂慮し、その人間の体調や置かれた環境を考え、様子をみたほうがいいこともあるからだ。

   昔は、場合によっては乳糖などでできた「偽薬」を出すこともあったという。病は気から。特に血圧は『気分』で上がったり下がったりするからだ。<「確かに以前は、高血圧は怖かったですよ。われわれが医者になった60年前は、日本人には脳出血が非常に多かった。ところが、今では栄養状態がよくなって血管が丈夫になり、血圧が上がってもそう簡単に血管は破れなくなった。むしろ血圧が下がったときのほうが危ないこともあるのです。(中略)

   特に人間は脳が心臓よりも高いので、脳に血液がいかなくなると深刻ですよ。駆け出しの医者が『血圧が高い、大変だ』ということでおじいさんにたくさん降圧剤を出すでしょう。すると脳に血がまわらず、あっという間にボケてしまう」>

   発表したこの基準値がすぐにこれまでのものと置き換わるのではなく、「ゆくゆくは、それぞれの学会と数値をすり合わせる必要も出てくるでしょう」という程度なのだそうである。そんなことをされてはたまらないという『勢力』には逆らえないということであろう。週刊ポストはその辺を見越して<「健康基準値」を操るだけで年間1兆円ボロ儲け高血圧マフィアの「裁かれざる罪」>という特集の中で、カナダ人ジャーナリストのアラン・カッセルズ氏に「基準値変更の影に大きな利権構造が存在する」といわせている。

<「アメリカでも最近まで、高血圧の基準値はどんどん引き下げられてきました。それにつれて、膨大な数の健康な人たちが病人の範疇に引き入れられることになった。たとえば、アメリカでは当初、正常な血圧の範囲は『上が140未満、下が90未満』とされました。
   その時点で約6500万人の『高血圧症患者』が出現することになった。さらに03年、『上が120未満、下が80未満』というガイドラインが策定されました。すると、一夜にしてさらに3000万人もの人たちが病気と判定された。
   『病人』が増えて得をする人たちは誰か。それは、患者たちを診察して処置を施す医師たちと、薬を売りつける製薬会社です。彼らは利益を生むための手段として、血圧の基準値を厳しくすることを利用してきた。まさに、『高血圧マフィア』と呼ぶにふさわしい利権構造です」>

   医療費を減らしたい厚労省の役人と、患者をつくりジャブジャブとクスリ漬けにしたい医者と製薬業界のせめぎ合いは、新基準を「棚上げ」にすることで話がついたということなのだろう。私のような血圧&血糖値の高い患者は、何も変わることなくクスリを飲み続けるしかないようである。

もう夫婦で心中しろと言うのか!認知症夫の列車事故で妻に360万円支払い判決

   何度も書いているが、読者の素朴な怒りを代弁するのも週刊誌の重要な役割である。週刊現代は91歳の認知症の夫が電車にはねられ、85歳の妻に賠償命令が出た名古屋高裁の判決を取り上げ、この裁判官はおかしいと怒り、地裁、高裁の裁判官の実名と素顔を公開している。

   事故が起きたのは2007年12月7日の夕方。愛知県大府市に住むAさんは00年から認知症の症状が出始め、この頃には要介護4と認定されるほど症状は進んでいた。自分の名前も年齢もわからず、自宅がどこなのかも認識できない。昼夜を問わず「生まれ育った場所に帰りたい」と家を出てしまう。家族はAさんを必死に介護した。長男は月に数度、週末を利用して横浜から大府にやってきた。長男の嫁は単身、大府に転居し、義母と一緒に介護に当たったという。

   それでも悲劇は起こった。奥さんがウトウトした隙にAさんは家を出てJR東海の線路に入り込み、快速列車にはねられてしまった。2万7000人の足に影響を与えたという。だが、JR東海関係者は、交通機関はこうした場合、機械的に遺族に損害賠償請求をするが、「株主の手前、形式的に請求はしますが、本気で損害金を回収しようと思っていないケースも多い」という。ところが今回、長門栄吉名古屋高裁裁判長は360万円の支払いを妻に求めたのだ。長門裁判長は判決文の中でこういっている。

<「配偶者の一方が徘徊などにより自傷又は他害のおそれを来すようになったりした場合には、他方配偶者は、それが自らの生活の一部であるかのように、見守りや介護等を行う身上監護の義務があるというべきである」>

   私もこの判決を聞いたとき、それはないだろうと叫んだ。だが、昨年8月(2013年)の名古屋地裁の判決はもっとひどかったのだ。上田哲裁判長は別居の長男にも720万円の賠償命令を下し、妻にも注意義務を怠ったと同額の支払いを命じたのである。

   これからますます増える老老介護だが、こんな判決が出るのでは、認知症になった伴侶を殺して自分も死ぬしかないないと思う老人が増えるはずだ。25年前から認知症患者のケアをしている精神科医の和田秀樹氏もこう憤る。<「地裁はAさんの4人の子供のうち、最も介護に腐心した長男の責任だけを認定しました。これでは、怖くて誰も親の面倒をみられなくなってしまう。正直者がバカを見ることになるからです。二審は妻の責任だけを認めましたが、老老介護の立場になったら、認知症になった連れ合いを捨てるか、心中してしまえと言わんばかり。家族の不安をひどく煽っています」>

   世間知のない裁判官ほど始末の悪い人間はいない。自分が老いていくことを考えたことはないのか。こういう裁判こそ裁判員裁判でやるべきであろう。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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