『JUNO ジュノ』『マイレージ、マイライフ』のジェイソン・ライトマン監督の最新作で、過去を引きずる男女の禁断の愛を13歳の少年の視点で描いたラブストーリーだ。
1985年、アメリカ東部の閑静な田舎町で、離婚が原因で鬱状態に陥ったアデル(ケイト・ウィンスレット)と息子ヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、スーパーマーケットで屈強な逃亡犯フランク(ジョシュ・ブローリン)に出くわし、自宅に匿わされることになった。フランクは危害を加えないと約束し、家にいさせてもらっているお礼にと料理を作り、散らかり放題になった家を掃除し、ヘンリーに野球を教えた。やがて、ヘンリーは父のようにフランクを慕い、アデルはフランクと禁断の恋に落ちてしまう。
「女」と「母親」の間で揺れる危うい心
フランクとアデルの急接近は展開が唐突過ぎると感じるかもしれない。映画ではヘンリーの目を通してアデルの心の闇が描かれていく。ヘンリーの視点は同時に観客の視点にもなり得る。車でスーパーへ買い物に行くのも息子の助けなしにはままならないアデルを、ヘンリーとともにそわそわしながら見ることになる。
心の安定を欠いているアデルに肩たたき券ならぬ「1日夫券」をプレゼントして、別れた夫の代わりになろうと努めるヘンリーの健気さは、この親子が抱える途方もない喪失感を浮き彫りにする。喪失感に対する丁寧な描写は、フランクに救いを求めるアデルの姿にリアリティを与えている。
アデルだって決して手放しでフランクを迎えたのではない。息子に危害が及ぶことを恐れ、いつも警戒しているのだ。ケイト・ウィンスレットは「女」と「母親」の間で揺れる危うい女性を見事に演じている。
ヘンリーの葛藤も色濃く描写されている。アデルとフランクが仲睦まじく寄り添っている様子に、自分は邪魔者なのではないかという不安に襲われる。ガトリン・グリフィスの澄んだ瞳は陰りがよく映える。彼の不安は観客の胸を打ち、5日後のラストに涙することだろう。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆☆